作品タイトル不明
城壁移設 ①
領主館の1階に有る応接室では、ウォーレス家系の重鎮たちが勢揃いして待ち受けていた。
エクラーダ民の動向に、それだけ関心が高いということだろう。
お母様たちの背後にはワールターさんとジアンさんが並び、メイド服姿のエゼリアさんとアンリカさんとトリアさんが扉を入った右の壁際に控えている。
赤絨毯が撤去された室内には、食堂の大テーブルと遜色無いほど長大なテーブルが置かれていて、片側10脚ずつも椅子が並んでいる。
交渉団とか、そんなのを相手にする想定の部屋なんだろうなあ。
右側一列にウォーレス家の面々が居並んで、ミセラさんが左側一列に三人組を誘導する。
ルナリアと私も右側だよ。案内を終えたミセラさんが、扉を入って左の壁際にレヴィアさんとマーシュさんと並んで控える。
泣き腫らした女性の顔を見たお母様にぐりぐりと撫でられた。
私が下準備で三人組を説き伏せたことを、ちゃんと分かってくれている。
「私は旧エクラーダ王国騎士、エウリ・ティブライアと申します」
「同じく、エング・ストロームです」
「同じく、エターナ・トラヴァスと申します」
テーブルで見えなくなるから三人組は膝を突かない。
代わりに、スッと右手を胸に当てて深く頭を下げた。
全員、正騎士なんだね。
背筋が自然に伸びて、動きがシャキッとしていて、しっかりとした作法の訓練を受けていることを感じさせる所作だった。
それにしても全員が「エ」か。
国名からして「エ」だけど、オルレーシア様やフレーリアの例を見ると命名法則に「エ」縛りは無さそうなんだけどな。
フランス語だと、「エ」が「輝く」って意味なんだっけ?
いや。でも、オルレーシア様やフレーリアは家名に「エ」が入ってるから要らなかったのかな?
オルレーシア様の旧姓が分からないから未確定だな。
旧姓に「エ」が入っていたら確定に一歩近付きそう。
こっちの世界では「カラット」を「宝石」って意味と伝えているのなら、日本人の命名法則みたいに名前の「エ」の文字に意味を込めて、大切な子供の未来を願う文化が有るのかも。
「フィオレの母、フレイア・ピーシスだ」
「私はルナリアの父、ハロルド・ウォーレスだ」
「儂はハインズ・ウォーレスと言う」
「儂はマルキオ・ピーシスだ」
「セリーナ・ウォーレスよ」
「私はシェリア・ピーシスです」
順に名乗り返したウォーレス家の面々は大陸中に名を轟かせた人たちだからね。
錚々たる顔ぶれに三人組が目を瞠る。
「おお・・・。ハインズ閣下。マルキオ閣下。ハロルド閣下。フレイア閣下。かつて、我らが祖国のためにご助力いただいたご恩、我ら、一時も忘れたことはございません」
「うむ。此度は残念だったな」
感動した面持ちのエウリさん? に、ハインズお爺様が答え、手振りで椅子を勧められた三人組が席に着く。
同時にお爺様たちも席に着く。
主要メンバー全員が席に着いた完璧なタイミングで扉が開いて、ディーナさんたちとディディエさんたちがお茶を運んできた。
みんなメイド服姿だけど、非戦闘員はディディエさんたち二人だけだよ。
セリーナお婆様? お説教が怖いから戦闘要員にカウントするのが妥当じゃないかな。
今、この応接室にカリーク公王国軍が攻め込んできても、一瞬で返り討ちにできるぐらいの過剰戦力が顔を揃えてるんだけど、知らないってことは幸せなことだ。
説教された後に、ちょっと来いと呼ばれて付いていったら、複数のラスボスが顔を揃えたボス部屋だったとか。
私だったら、攻め込んだ部屋にこんな面子が揃っていたら全力で死んだフリをする。
怖がるかなー、とか、嫌がるかなー、とか、将来を決める大事な話し合いの場に出るのを丁重にお断りされても困るから、詳しく説明せずに連れ込んだんだけどね。
知らせずに連れ込んだ私が言うのも何だけど、知らないまま連れ込まれた三人組が結果的に喜んでるのなら、WINーWINだろう。
「折角のご助力を無駄にしてしまい、面目次第もございません」
「いいや。 彼奴(あやつ) らの手口は巧妙で始末が悪い。儂らも先日まで西部地域を引っ掻き回されたところだ」
着座のままエウリさんが深く頭を下げ、険しい表情のハインズお爺様が首を振る。
ほんと、腹立つよね。
言ってみれば、この場って被害者友の会の懇談会だよ。
カレリーヌ様の手前、王都では「知らね」って言ったけど、カレリーヌ様の絶望したお顔やエターナさんの泣き顔を思い出すと、カッカと頭に血が上ってくる。
「は。しかし、電光石火の働きで見事に奴らの 謀(はかりごと) を打ち破られたと聞き及んでおります」
「フィオレの機転のお陰だな。アレが無ければ今も内戦が続いていて、リテルダニア王国も疲弊させられただろうよ」
「それと、ルナリアがフィオレを繋ぎ止めてくれたお陰でもあるな」
エウリさんにお母様とお父様が答えてウォーレス家側が一様に頷く。
「フィオレ様の、ですか? 王国の頭脳と呼ばれるシェリア様と社交界を統べるセリーナ様のお知恵かと考えておりました」
「私たちは戦の段取りをしただけですよ」
「ねえ」
三人組の目が集まったお婆様たちはひらひらと手を振って否定する。