作品タイトル不明
亡国の騎士 ⑲
「・・・お母様が―――、当時のリテルダニア王国子爵家当主にして特務魔法術師、フレイア・ピーシス卿が奴隷の密輸を阻止していなかったら、私は珍しい奴隷としてカリーク公王国へ売られていたところだったんだよ? なに言ってんの」
「「「・・・・・」」」
さすがに女性も絶句した。
あなたたちにとっても、お母様は大恩有る相手なんだよ?
お母様の手から娘を奪わせたりしないし、私も奪われたくない。
私はお母様の傍に、お母様と出会わせてくれたルナリアの傍に居たい。
どうしても私たちの平穏を壊しに来るというのなら、それはカリーク公王国や勇王国や神教会と同じ、私の敵だ。
敵なら私は容赦しない。持てるものの全てを振り絞って叩き潰す。
「・・・もう一度言うよ? 私はフレイア・ピーシスの娘、フィオレ・ピーシスで、他の誰でもない。その上で、亡国から逃れて来るであろう、あなたたち難民のために居場所を作ろうと頑張ってきた。それを、自分たちが護れず、むざむざと勇王国に乗っ取られた亡国を取り戻したいと、リテルダニア王国まで戦渦に巻き込むつもりなら、私はあなたたちを許さない。そんなに戦争がしたいなら、さっさとエクラーダへ帰りなさい!」
「「「―――ッ!!」」」
抑えきれなくなった私の叫びに、三人組がガックリと項垂れる。
女性は肩を震わせて顔を伏せ、ポタリ、ポタリと、地面に 雫(しずく) を落としている。
息を呑んだ少年少女たちはシンと静まり返っていて、ジアンさんは目を閉じたまま安堵したように息を吐いている。
「フィオレ・・・」
「・・・ああ、うん。ちょっと熱くなり過ぎた」
くいくいとルナリアに袖を引かれて我に返った。
熱くなった頭を冷やそうと深呼吸して肺の中を新鮮な空気に入れ替える。
日が傾き初めて温度を下げ始めた冬の空気が私の思考をクリアにしていく。
「・・・良い? 勇王国から逃れた民のために、あなたたちが今すべきことを、もう一度考えなさい。あなたたちが生き残るために必要なのは、奪われた土地なの? それとも、一緒に逃れてきた民なの? 土地を奪われただけで人間は死なない。ご飯を食べられて、安心して眠れる場所が有れば、人間はどこでだって生きて行けるからね。でも、奪われた土地を取り戻すために死んじゃったら、人間はそれまでなんだよ」
「そんなの決まってます!」
涙に濡れた顔を上げた女性が悲痛な叫びを上げた。
男性たちは力強く真っ直ぐな目を上げている。
なんだ。ちゃんと分かってるんじゃん。
私も安心したよ。
「・・・だったら、終わってしまったことは捨て置きなさい。ちゃんと前を向いて生きるために足掻きなさい。そのためだったら、私はあなたたちを受け入れて協力してあげます」
「フィオレ様。申しわけありませんでした。迷える民のために、何卒、お力をお貸しください」
三人組が深く頭を下げた。
声にも揺るがない芯が感じられる。
これなら大丈夫そうだね。
ようやく「準備」が整った。
「・・・分かった。お母様たちが話を聞いてくださるから立ちなさい。民の明日のために話し合おう」
「「「はっ」」」
三人組の返事に頷いて、少年少女へと目を移す。
一人ひとりの目を見ながら未来を担う若者たちを見回す。
ピーシーズ増員メンバーは目安60人の予定だけど、男女合わせて80人ぐらい居るんじゃないかな。
誰かがゴクリと息を呑んだ。
見覚えが有る顔が結構いるけど、みんなピーシス領で見たときよりも顔つきは引き締まってるね。
「・・・あなたたちも。明日は我が身なんだよ? 彼らのように故郷や家族を奪われたくなかったら、いま何をすべきか考えなさい。そう遠くない未来に、必ず勇王国や神教会と戦う日が来るからね。覚悟を決めなさい」
「「「「「はっ!!」」」」」
良い返事だ。目にも力がある。
チラリとジアンさんを見ると、優しい笑みを浮かべて頷いてくれた。
くっ・・・! ここで癒やしビームか? このイケメンめ。
いちいち仕草がイケメンムーブなんだよな。
事態が治まったと見たルナリアがニッと笑って私の手を取る。
「じゃ。行こっか」
「・・・うん。行こう」
三人組を促して、ルナリアと手を取り合って先に立つ。
これで良い? フレーリア。
私は私のやり方でしか彼らを助けてあげられないけど、彼らが生きようと足掻き続ける限り、精一杯、助けるよ。
あなたが何を望むのか私には分からないけど、これが、あなたにしてあげられる精一杯のことだから。