作品タイトル不明
亡国の騎士 ⑯
結局、こうなるのかあ。
さすが脳筋の巣窟。
殺気立ったり大騒ぎしている領民たちも、「大丈夫だよ~」的にニコニコしつつ声に応えて手を振ると、三人組の騒ぎはどこかへ素っ飛んでいくみたい。
楽しいわけでもないのに営業用スマイルを貼り付けて愛想を振りまくのって、表情筋が痙りそうになるんだよね。
こんなサービスを日常的にこなしてるテレサってすごいわ。
「・・・来たね」
領主館の敷地に入ると、さすがに領民たちの目は無くなる。
厩舎前の広場で鞍から下りて兵士さんに手綱を渡してしばらくすると、バンダースナッチと一緒に荷馬車へ適当に積まれた三人組が敷地に入ってきた。
ノーアを抱き上げたまま私たちの傍で待っていたお母様が、フードを外された三人組の姿を確かめて私へ視線を移してくる。
「エクラーダの連中か?」
「・・・間違いないと思う」
「ふむ? 応接室で良いか」
お母様の判断を聞いて、トリアさんとマキアナさんが足音も無く領主館へ駆け込んでいく。
領主館のメイドさんたちへの部屋の準備指示と、お父様たちへの伝令かな。
応接室ってことは、あの三人組を客人として扱うってことだよね。
隣国から情報戦を仕掛けられている可能性が高い現状を思えば、どんなに小さな情報でも拾っておきたいってことだろう。
何のこともない小さな情報から敵の思惑を読み取れる可能性だって有るのだから、重要な情報源だし当然の措置だ。
まあ、領主一族としての立場では、そういう判断でも、家族としての本音は、フレーリアを追ってきた母国の人たちだから慎重に接しようとしている、ってことなんだろうけど。
エクラーダ民の扱いは、そのぐらいセンシティブな問題に発展しかねないし。
お母様たちを心配させちゃってるんだな・・・。
しんみりすれば良いのか怒れば良いのか、でも、心配して貰えていることに胸の奥から喉元が詰まりそうになる何かが込み上げてきているのも確かだ。
お母様たちを悲しませるようなことだけはするまいと決意を新たにする。
ふと、そこで気付いた。
「・・・応接室ってどこだっけ?」
行商人のハンスさんなんかがセリーナお婆様に呼びつけられて商談した部屋のはずだけど、油断できない間諜との遣り取りに参加させて貰えなかった私は 蚊帳(かや) の 外(そと) だったし、応接室の存在は知っていても応接室の場所を私は知らない。
「テレサが王都騎士団のネルド隊長と謁見した部屋だ」
「・・・ああ、あの部屋。分かった」
王都からの使者を迎えるために赤絨毯が敷かれていた部屋のことだ。
ウォーレス領で貴人用の赤絨毯なんて日常的に敷いておくことなんて無いだろうから、赤絨毯が片付けられて普通の部屋に模様替えされているんだろう。
「準備が出来たら連れてこい」
「・・・はい」
しっかりと頷く私の返事を聞いたお母様は、歩み寄ってきて私の頭をぐりぐりした後、エゼリアさんたちを引き連れて一足先に領主館に入っていく。
「準備」が出来たら、ね。
アイアイ、マム。もちろん、そのつもりだよ。
ルナリアは私のことが心配なのか、私と一緒に「客人」を待つつもりのようだ。
ピーシーズとミセラさんたちは、ガッチリと私たちの周囲を固めている。
お母様の言う「準備が出来たら」というのは、縄を掛けて獲物扱いで連行したことを謝っておけ、ってことだろうね。
混乱の最中の緊急事態とはいえ、客人扱いなら手荒だったことは間違いないし。
私としては、それだけで済ませるつもりは無いんだけどね。
荷台から下ろされた三人組が、厩舎前で待つ私たちの前へ引っ立てられてくる。
「・・・みんな、ご苦労さま」
ジアンさんが目を光らせる中、働きを認められた少年少女がホッとした表情を見せる。
どれだけ脅されて、しごかれたんだろうか。
まあ、素直なことは良いことだ。
職務に忠実であるなら、私もキツく当たるつもりは無いしね。
緊張した面持ちの三人組が私の正面に 跪(ひざまづ) かされる。
「・・・縄を 解(ほど) いてあげて」
「「「「「ええっ!?」」」」」
少年少女たちだけでなく、なぜか三人組も一緒に驚いている。
「ええ? じゃないよ。ただでさえ領民たちが興奮してるのに混乱を酷くされたくなかっただけで、別にこの人たちが悪いことをしたわけじゃ無いんだから」
「「「「「は、はい」」」」」
そうなの? って感じで、首を捻りながら三人組の拘束を解きに少年たちが群がる。
とはいえ、いつでも掴み取れるように魔力の手を伸ばして三人組を包み込んでおくけどね。
無いとは思うけど、万が一にもルナリアに危害を及ばさせるわけには行かない。