軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

亡国の騎士 ⑰

「拘束を解いて、よろしいのですか?」

「・・・いま言った通りだよ。別にあなたたちは犯罪を犯したわけじゃない」

両膝を突いたまま、縄を解かれた女性が真意を測りかねた様子で私を見上げる。

銀髪は銀髪だけど、光の加減なのか赤味がかって見える髪を一本の三つ編みに纏めた気の強そうな女性は、絶望したような目をしている。

「では、なぜ?」

「・・・あの混乱状態を見たよね? 知ってる人は知ってるし、秘密にしているわけじゃないけど、あんな場所で、あの名前を呼ぶのはいけない」

私の答えに、女性の目に希望の光が灯る。

そんなことだろうと思ったよ。

「では、やはり貴女様はフレーリア殿下なのですね?」

「・・・さあ? 私、ここ9ヶ月間ほど以前の記憶が無いんだよ。だから、知らない」

「そんな・・・! 記憶が!?」

希望の光から一転、愕然とした女性が悲鳴のような声を上げた。

たぶん、この人も短絡思考の脳筋系だ。

言い方は悪いけど、こういう人にはハッキリと分かっておいて貰う必要が有る。

「オルレーシア殿下のことも、エクラーダ王国のことも、覚えていらっしゃらないと申されるのですか!?」

「・・・私ね。9ヶ月ほど前に餓死し掛かったんだよ。もしかすると、そのときに一度、死んでるんだよね」

相手が感情的になっているからこそ私は冷静で居なくちゃいけない。

正直、フレーリアのことを思えば、今頃になって何しに来たんだ、という思いが私の中には有る。

守護者であったはずの当事者を目の前にしてしまうと、あなたたちがしっかりしていれば、この子は死なずに済んだのに、と思わずに居られない。

だがらこそ、感情を抑えて淡々と言う。

この場で私の思いを理解できるのはルナリアだけだろう。

そして、その思いを分かってくれているから、ルナリアはこの場に残ってくれたのだと思う。

「餓・・・死・・・?」

口を挟まず聞いていた男性たちも愕然とした表情を顕わにした。

男性たちもまた、女性と同じく両膝と突いたままだ。

この人たちも体格が良いから、そのままで居てくれると私の首が見上げて疲れずに済む。

今の私を見れば、とてもそんな風には見えないかも知れないけど、事実は事実だからね。

現実は現実として受け入れて貰うよ。

「・・・だから、悪いけど、私は何も覚えてない」

「し、しかし! 貴方はご自身のお名前を覚えていらっしゃるでは有りませんか!」

食い下がる女性の叫びに首を傾げる。

私の情報を集めれば、私が記憶喪失で“魔の森”から生還したという話は必ずセットで付いてくると思う。

私の“中身”を隠すために積極的に流された公式設定だから、耳にしていないとは思わない。

「・・・聞いてるんだよね? 私の名前はフィオレ・ピーシスで、他の誰でもない。フレーリアって名前はリヒテルダート家のカレリーヌ様が情報をくれたから、その可能性が高いってだけで、自分の名前だとは思ってなかったよ」

意志の強さで冷静を保った男性が納得する様子を見せた。

少し伸び始めた感は有るけど、短く刈った銀髪にガッチリとした体格から見るに、恐らく騎士。

この人がリーダー格っぽいかな。

苦境においても失わない理知的な目の光りに好感を覚える。

「カレリーヌ・リヒテルダート様・・・。情報通で知られる旧ジュノー王国の元第3王女殿下ですか」

「「・・・えっ!? カレリーヌ様って、元王女様だったの!?」」

男性が口にした爆弾発言にルナリアと二人で目を剥いた。

私たちの勢いに余ほど驚いたのか、膝立ちで仰け反った男性の瞬きの回数が増える。

「ご、ご存じ無かったので?」

「・・・だって、私たちが生まれる遙か前のことでしょ? っていうか、ルナリア! なんでルナリアが知らないの!」

反論している最中に、ルナリアが一緒に驚いていたことを思い出したら、ツルペタ奉行が反り返った。

「だって、知らないもの!」

「・・・ああ、うん。そっか」

じゃあ、仕方ないな。

反り返ったお奉行様の威厳に、三人組の目がようやくルナリアへ向く。

「あ、あの。こちらのお方は・・・?」

「ウォーレス公爵家の当代、ルナリア公爵閣下だよ」

「ルナリア・ウォーレスよ!」

目の前に居るのが現地の最上位者だと知って、三人組が揃って片膝を立てた体勢に改めた。

やっぱり、三人とも騎士だったか。