作品タイトル不明
亡国の騎士 ⑭
「ご領主様がお通りになる!! 道を空けよ!!」
「道を空けよ―――ッ!!」
あ。この声、ジアンさんかな? と、考えたのも一瞬のことで、人垣の後ろからピョーンと頭上を越えてきた皮鎧の少年少女が、大声を張り上げて領民たちを押し退け始める。
あれって、もしかしてジアンさんが連れて来たピーシーズ増員メンバー候補の女の子たちと騎士候補の男の子たちかな?
あっちこっちからわらわらと湧きだした少年少女が除雪車のように道を押し開いていく。
抵抗したり従わなかったりすると、開拓予定地側の森へ領民を放り投げてるんだよ。
だから、ブルドーザーじゃなく、除雪車。
「やるじゃない!」
「・・・そうだねえ」
相手も悪意の無い領民たちなのに容赦ないな。
ジアンさんに鍛えられたのなら容赦ないのも頷ける。
ていうか、ほんの数日間で根性を叩き直せたんだろうか?
・・・叩き直したんだろうなあ。
どんな叩き直し方をしたのかは痛そうだし怖いから聞かないでおこう。
「・・・取りあえず、進もうか」
「そうね!」
モーゼの十戒で海が割れるように人垣が押し退けられて道が延びていき、直線道路と街道の交差点まで人垣が割れると、交差点の真ん中で執事服姿の長身男性が一人、待ち構えている。
皮鎧の少年少女は、押し退けて背中にした領民たちが溢れ直して来ないように、両腕を大きく広げて人垣を押し留めている。
「・・・やっぱりジアンさんだったか」
絶対に、そうだと思ってたけどね。
私の独り言は聞こえていなかっただろうジアンさんが、恭しく一礼して迎えてくれた。
「・・・ありがと。ジアンさん」
「お帰りなさいませ。フィオレ様、ルナリア様」
「ただいま!」
馬の歩みを緩めて交差点を左折すると徒歩のジアンさんが私の馬に並びかけてくる。
名前を呼ぶ順番が変わったのは、ジアンさんに認めて貰った結果なのかな?
違ったら自信過剰に見られるかも知れないから訊けないけど。
当のジアンさんはルナリアの挨拶にもイケメンスマイルでフッと笑い返している。
「・・・この子たちも見違えたよ」
「簡単に鍛えておきましたが、まだまだです。本格的に鍛え直す必要が有るでしょう」
そう言ってジアンさんがチラリと少年たちへ視線を向けると、領民を押し留めている少年たちがダラダラと脂汗を流し始めた。
ジアンさんは、一体、どんな訓練を―――。
ハッ! いけない、いけない。
深淵を覘けば深淵に覘き返されるものなんだから、世の中、知らない方が良いものも有るのだろう。
「ジアン」
「はっ」
後方からお母様に呼ばれたジアンさんが、私たちに一礼を残して足を緩める。
ゆっくりなペースだとは言え移動しながらの会話だったから、ジアンさんがスルスルと交代していく。
「お帰りなさいませ。フレイア様」
「出迎えご苦労」
ジアンさんはピーシス領の代官をまだ外れていないから、話しておくことが色々とあるんだろうね。
次にカリーク公王国軍が攻めて来たらジアンさんも前線に出たがるだろうから、代官の補佐官を増やした方が良いんだろうか。
そうじゃないとタリアさんのニーナさんの負担が大きいよね。
領内に良い文官が居れば良いけど、タリアさんに心当たりを聞いてみるかなあ。
「・・・ん?」
集まっている視線を気にしないように思考に没頭しようとしていたんだけど、人垣の中に感じの違う視線を感じて無視できなくなった。
視線の主を探してみると、人垣の後ろの人口密度が低い辺りに、目深にフードを被った外套姿の三人組が私を凝視している。
自意識過剰なんじゃなく、あの人たちが見ているのは間違いなく私だ。