作品タイトル不明
亡国の騎士 ⑩
ウォーレス領に冒険者がたくさん居れば、冒険者も戦力に数えられただろうけど、即物的な大儲けが出来る「儲かる魔獣」が出ない南部地域―――、ウォーレス領には冒険者が居ない。
この状況も、どうにかしなきゃなあ。
冒険者は傭兵じゃないからね。
ウォーレス領は最前線だから、戦争に動員される恐れが有ると思えば「何でも屋」の冒険者は危うい場所に近付きたがらない。
そんな冒険者を引き寄せるには、リスクを上回る「何か」が必要なのは市場原理だろう。
その隙間を埋めてくれているのが「地元」の猟師さんたちなんだから。
あのオジサンたちは、家族が住む「地元」だから隙間を埋めてくれている。
「・・・敵兵ってね。所詮は“武器を持って抵抗してくる生き物”でしか無いんだよ。でも、人間には違いないし、言葉を話すから人間を殺すのに抵抗感が有っても当たり前なの」
「んん? 敵を殺さないと自分が殺されるのよ?」
そうだねえ。その通りだよ。
生命倫理という心理的障壁を乗り越えている猟師さんたちは、そう言った意味でも準戦闘員としての資質を備えているんだよ。
よって、猟師さんたちが選ばれた。
「・・・ルナリアには敵を殺す覚悟が有るじゃない? 私にも、ピーシーズにも有るよ。でも、そうじゃない人の方が多いんだよ。だから、猟師さんたちは貴重なの」
「はー。そういうものなのね。わたしには、よく分からないけど」
この辺り、狩猟で生きてきた私も、軍事色の強い武家の娘として育って来たルナリアも、根っこのところで倫理観が同じだったんだよね。
獲物は殺すもの。
敵は殺すもの。
自分たちが生き残るためには他者の命を奪うことを躊躇わない。
そうじゃなければ、今この場にルナリアも私も生きて立ってはいなかった。
「・・・殺されたら何にもならないんだから、私にも分からないけどね。そういう人たちが、たくさん居るってことだけ知っておけば良いよ」
この問題は、もうちょっと根深いんだけどね。
必要以上の不安をルナリアに与えたくないから、まだ言わないけど、“魔の森”の脅威が目の前にあるウォーレス領でさえ、率先して森へ入ってくれる人の風はそれほど多くない。
“魔の森”の脅威をどこか遠くの世界の話だと思っていた西部地域から来た移住民は、森に入りたがらない傾向が強いんだよ。
「でも、そんなの、どうやって戦わせれば良いの? 戦わない人ばかりがたくさん居たら守り切れないわ」
「・・・だから、戦える人の数を手っ取り早く増やすのに、ハインズお爺様は猟師さんたちを優先して鍛えることにしたんだよ。単に、手が足りなかったことも有るけどね」
そこへ、さらに西部地域から5倍近くもの移住民のお代わりと、さらにさらに西方の他国から5倍を遙かに超える戦争難民が押し寄せてくるわけだ。
戦うことを知らなかった新領地の領民も併せれば、非戦闘員の数は10倍近くまで膨れ上がるんじゃないだろうか。
戦闘要員の増員は喫緊の課題になる。
「それで回収と出荷の作業を猟師たちに任せてるのね?」
「・・・そうだよ。これって、私たちが王都へ行ってる間に、シカの処理で、そういう流れが出来てたんだって。今回のバンダースナッチ対策も、領軍じゃなく猟師さんたちだけで討伐できるように教えてるのも、その一環で許可が出たんだよ。」
現状、引き続きバンダースナッチの様子を見る間の期間は、安全な討伐手順確立のために私たちと猟師さんたちがバンダースナッチを独占している。
様子見の結果が出る頃には猟師さんたちはポカポカが無くなって育ちきっているだろうし、常日頃から筋肉と戦闘技術を鍛えまくっている騎士様や兵士さんたちは後回しになっていても、そのうち順番が回って体内保有魔力量も育つだろう。
最終的には専業の騎士様と兵士さんたちが強くなって領軍の優位性は維持されるのだけど、有事の予備戦力として真っ先に非常呼集される猟師さんたちの底上げが行われた。というのが、実態なんだよね。
なぜ、こんな順番で領内の戦力強化を進めているのかというと、晩餐時の雑談の中で私が推していたことも有るけど、留守を預かっていたお爺様たちが西部地域へ主戦力を取られた兵力低下を補うために、最低限の戦力増強を優先したからだ。
私たちがレティアへ帰ってきたときには、シカの出荷作業を有効活用した今の戦力強化プランが実行されていたんだよね。
「ほえー」
「・・・お爺様たちは、すごいんだよ」
私たちが王都へ出掛けてシカのリソースが余ったのだから、と、どのみち出荷作業は行う必要は有るし、リソースを上手く活用しきってくれたお爺様たちの知恵には感服するしか無い。
「でも、猟師を戦力にしたぐらいじゃ足りないんじゃない?」
「・・・まあね」
そうは言っても、おバカな隣国に面していて戦争が身近に有るウォーレス領においては、領民の全てが予備戦力では有るんだけどね。