作品タイトル不明
亡国の騎士 ⑨
「どうした?」
「・・・回収作業が終わったんだけど、中途半端な時間だし、どうしようかと思って」
私の報告に、ふむ、と思案顔をしたのも一瞬、お母様はすぐに決断した。
「明日のことも有るし、今日は早めに引き揚げるか」
「・・・そうだね。明日って何時頃から始めるの?」
ほぼノータイムだよ。
お母様は本当に判断が早い。
スケジュールを記憶している上で、ある程度の段取りが頭の中に有るのだろうね。
そうでも無ければ、この判断の早さは実現できないと思う。
その証拠に、聞き忘れていた私の質問に対する答えもノータイムだよ。
「日の出の後だな。城壁の切り離し箇所には目印が付けられているが、暗いと見えん」
「・・・なるほど。じゃあ、撤収作業を始めるね」
「おう」
お母様の承認で、私の後ろに付いてきてくれていたミセラさんに撤収指示を伝えると、休憩中だった猟師さんたちもすぐに動き出した。
預かって貰っていた馬たちが牽き出されてきて、あっという間に撤収準備が整う。
「さあ、帰るわよ!」
「・・・じゃあ、出発」
私たちの号令と共に馬列が動き出す。
撤収準備が整うまでの動きを見ていても、猟師さんたちは“領軍の予備戦力”なのだと感じさせられる。
森でお母様たちに救出された直後に私が感心した、領軍の撤収準備の早さに引けを取らない手際の良さだった。
そう感じたのは、動き始めた馬の背で馬列の後方を振り返っているルナリアも同じだったらしい。
「猟師も手際が良いわよね」
「・・・そりゃあね」
「ん? どうして?」
私に顔を見てルナリアが不思議そうに首を傾げる。
おや? ちゃんとした理由が有るんだけど、ルナリアは気付いてなかったか。
「・・・真っ先に動員される準戦闘要員だから」
「なんで、猟師が真っ先なの?」
あー。そっか。そこが理解できないか。
どう教えたものかなあ。
私がお母様に拾われて以降、色々と有って今に至っているわけだけど、魔獣の血を 資源(リソース) と考えての狩猟が行われるようになって、リソース配分にも優先順位が付けられるようになったんだよ。
体内保有魔力量というものは基礎体力に分類されるもので、即効性が有ると考えたからこそ、常備軍である領軍よりも、予備戦力の強化を優先した方が効率的に総戦力を増やせると判断された。
ただでさえ、まあ、それ以前の問題も有って猟師さんたちに白羽の矢が立ったわけだけど、説明するなら、その辺りからの方がルナリアには分かりやすいかな?
「・・・生き物を殺し慣れていない一般の領民を訓練するよりも、猟師さんたちを訓練する方が早く戦力になるんだよ」
「そうなの?」
もっと踏み込んで噛み砕かないとダメか。
生命倫理の問題になるからなあ。
「・・・ルナリアにとって、“敵は殺すもの”だよね?」
「当然じゃない。攻めて来た敵は殺さないと領民を守れないわ」
ルナリアはそうだよね。もちろん知ってる。
「・・・うん。わたしもね、“獲物は殺すもの”だと思ってる。これは猟師さんたちも同じだろうね」
「敵も獲物も同じ、ってこと?」
「・・・“命を奪う”って行為は同じだよ。だから、敵を殺すことへの抵抗感を捨てやすいし、“命を奪うための道具”の扱いにも慣れてる」
魔獣を狩るのも敵兵を狩るのも、その行為自体に違いは無い。
「武器のことよね?」
「・・・そういうこと。生き物を殺し慣れていない一般の領民が戦場に立って、いきなり領軍と同じように戦えると思う?」
「慣れていないと難しいわね」
武器の扱いを学び始めたからこそ、ルナリアは即答に至ったのだろう。
ウォーレス領軍は強いからね。
そして、平民である一般の領民も強い。
特に、平時は軍務に拘束されず市井で働いている猟師さんたちともなれば、狩猟道具の扱いに長けた準戦闘員なんだよ。