作品タイトル不明
亡国の騎士 ⑧
「投げ縄班!」
「「はいっ!!」」
「ギャワッ!?」
一昨日の反省からか、猟師さんたちの間からヒュッと2本の投げ輪が飛んで、唸り声を上げて威嚇している獲物の首に掛かる。
これで、万が一にもククリが外れても時間稼ぎが出来るだけの安全性は担保された。
「水鉄砲班! シーヴァとビネガーをブッ掛けて! 狙いは目、鼻、口!」
「「「「「了解!!」」」」」
満面の笑顔で竹筒を手に飛び出してきた猟師さんたちが狙撃を始める。
「キャウンッ!」
一昨日と同じように赤っぽい液体と透明な液体が宙を飛び交う。
驚いたことに、一昨日とは命中精度がぜんぜん違う。
ビシャーっと糸状の液体が飛ぶのではなく、ピュッと短く飛んだ液体が放物線を描いて、見事に目と鼻と口に命中している。
何だコレ! 無駄が無さ過ぎる!?
どれだけ練習してたんだよ!
「キャインキャイン!」
目を直撃したタマネギ汁が染みて瞼を開けられず、必死に顔を背けようとしても鼻の穴にお酢が飛び込み、悲鳴を上げる度に開いた口からタマネギ汁とお酢を喉に流し込まれる。
あ~あ。もう、ボッコボコだよ。
そして、みんなはニッコニコ。
「凶暴で危険な魔獣」のはずなのになあ。
動物虐待? 狩猟は 殺(と) るか 殺(と) られるかの世界だよ?
「・・・うーん。いとあはれ―――、いやぁ。哀れ」
私の心情としては両方だけど、日本語って難解だよねー。
変人と呼ばれた首相がお相撲さんを表彰したみたいに、「とても感動した!」って意味の「いとあはれ」と、「あーあ、可哀想」って意味の「いやぁ。哀れ」って、音読すると「と」と「や」しか違わないのに意味が丸っきり変わるんだよなー。
ああ、不思議ー。
あまりの惨殺劇に思考逃避している私の前にスッと手槍が差し出された。
現世に帰ってくると、みんなが獲物をチクチク突っついていて、討伐が進んでいる。
「フィオレ様。如何されますか?」
「・・・一応、参加しておこうかな」
バンダースナッチはシカと違ってまだポカポカが感じられるし。マーシュさんの手から手槍を受け取って、昇天寸前の獲物に私もチクリと一突き。
心の中で、ナンマンダブ、ナンマンダブと手を合わせておく。成仏せいやー。
いやいや。精霊様の下へお帰りあそばせー?
無事に崖上の回収作業を終わらせて、崖下の回収作業もみんなで手伝う。
お母様にエレーナさんとノイエラさんのアクティブソナーが加わって、ワナに掛かった獲物を探し回る必要が無くなった分、回収はサクサク進んだ。
今日も魔力酔いでスヤスヤ眠ってしまったノーアを除けば、シカの血でポカポカを感じ取れるのはエゼリアさんたちとミセラさんたちだけだからね。
元々、体内保有魔力量が多いお母様は、早々にシカでポカポカを感じ取れなくなっていたから、ルナリアと私とピーシーズと猟師さんたちの他は、お婆様たちとお母様がシカを卒業したことになるのかな。
私たちが王都に行っていた不在中は、領軍の騎士様や兵士さんたちが頑張って魔力量を増やしていたそうだから、シカ卒業者はもっと多いか。
ずっと忙しかったお爺様たちも領軍と一緒に回収作業に参加するつもりらしいし、お父様もお爺様たちと交代で参加することになるのだろうね。
少し様子を見て継続的にバンダースナッチが獲れるなら、崖上の回収作業に領軍のシカ卒業者も再投入だな。
「回収作業を完了しました」
「・・・みんな、お疲れさま。少し休憩してて」
「「「「「うぃ~っす」」」」」
いつもより酔っ払い感の有る返事はバンダースナッチの血の影響かな?
猟師さんたちの報告を聞いて、どうしようかとお母様を探したら、採掘場の守備兵さんたちと話し込んでいる。
お母様に相談しようかと近付いて行ったら話し声が耳に届いてきた。
「では、年明けから工兵部隊が入る段取りで進めます」
「よろしく頼む」
「「「「「はっ」」」」」
お母様との打ち合わせを終えた守備兵さんたちが、会釈を残して持ち場に戻っていく。
工兵部隊ってことは、馬用リフトの件だったか。
守備兵さんたちの会釈が向かった先から、お母様も私の存在に気付いたようだ。