作品タイトル不明
亡国の騎士 ⑦
「やはりバンダースナッチだったか?」
「はい。罠に掛かっているようです」
イディアさんの報告にナンナちゃんだけがコクコクと頷いている。
私にはぜんぜん見えない距離でも、イディアさんとナンナちゃんの目には、ハッキリとバンダースナッチの姿を視認できてるらしい。
この二人がそう言うのなら、ワナに掛かっているのだろう。
「進むぞ。周囲への警戒も怠るな」
「「「「「はっ」」」」」
指示を出したお母様だけでなく何人かはアクティブソナーを使っているのだろうけど、それでも抑え気味の低い声で返事が返る。
サクサクと落ち葉を踏む足音だけを立てつつ隊列が進む。
そうして、しばらく進む内に、私の目にもバンダースナッチの姿が見えてきた。
「・・・んん? バル、バ、バ、何とかシャークさんだ!」
「ばる? しゃーく?」
「・・・ううん。な、ナンデモナイヨー」
ルナリア! それ以上はイケナイ!
右前脚と右後ろ脚をククリに吊り上げられて、水平に前後の脚をピンと伸ばした体勢で、それなりの大きさのバンダースナッチがワナに掛かっている。
左前脚と左後ろ脚はギリギリ地面に着いているぐらいか。
だが、残念だったな!
何とかシャークさんのポーズは後ろ腰に背鰭が立っていないと完成しないのだよ!
この未熟者め!
むむむ。しかし、魔獣ですら戦隊シリーズに追い付いてきたのなら、私は“蒸着”のポースにでも進化するべきだろうか。
バル、ば、ば、何とかパンサーさんのポーズも捨てがたいけど、時代が追い付いてきた以上、仕方あるまい。
予定通り何とかパンサーさんのポーズは同族のノーアに譲ってあげよう。
きっとノーアなら完璧にポーズをキメてくれるはずだ。
魔力使用禁止でヒマな私が非常勤キメポーズ評論家をしている間にも隊列は進んで、唸り声を上げる獲物の包囲に取り掛かっている。
猟師さんたちは油断なく、他のバンダースナッチの痕跡が無いかと、目を皿のようにして周囲の地面にも目を走らせている。
あっちの作業も猟師さんたちに任せておいた方が良いか。
獣道から外れた場所だし、地表は落ち葉で覆われているから痕跡を探すのは至難の業だろう。
それでも痕跡を探すクセを付けておくのは良いことだ。
「グルルルルル・・・!!」
「投げ縄班! 近付き過ぎないで!」
「ミズデッポウ班! 準備!」
「「「「「はいっ!!」」」」」
いつもならお母様のすぐ傍を固めるはずのエゼリアさんとアンリカさんは、それぞれに猟師さんたちの配置や道具の準備を指示している。
なるほど。こうして前面に出て指揮を執っている姿を見ると、確かに二人には嫁入り前に魔獣の討伐手順に慣れておこうとする意志が見て取れる。
エゼリアさんは冒険者ギルドとの距離が近くなるし、アンリカさんは北東地域の森に面した領地に住むことになるんだものね。
二人ともウォーレス領を離れても魔獣討伐とは無関係では居られない。
今後も二人とは討伐方法に関する情報共有を続けて行かなきゃな。
獲物の状態を確認して周囲への警戒にシフトしているお母様に、至近で護衛に就いているトリアさんが目を向けた。
「フレイア様の予想通り、本当に大きさも“そこそこ”でしたね」
「ああ。一昨日のボスほどでは無いな」
そうなんだよね。
ボス犬ほどの大きさでは無いけど、それなりに大きい。
これを、どう捉えるか。
採掘場周辺の森がダンジョン化している可能性は高まったけど、まだ断定するには至らないだろう。
元より明確な答えがあるものでは無いのだから、経過観察の結果で推測するしか無いのだろうけどね。
「この大きさのバンダースナッチが群れを作らず単独行動ですか・・・」
「まだ分からん。ただ、警戒を継続する必要がハッキリしたことだけは確かだ」
お母様も私と同じ意見みたいだね。
トリアさんは「群れを形成する魔獣」というバンダースナッチの生態を元に疑問を抱いたみたいだけど、地球のオオカミだって、群れから独立したばかりの若い牡は単独行動だったように思うんだよね。
ていうか、群れの動物は、大抵、そうじゃないかな。
だとすれば、サンプル数を重ねて統計的に判断するしか無いのだろう。
ゆくゆくは回収作業を猟師さんたちに任せることになるのだろうから、私の立ち位置としては、安全に狩りを行う技術を確立して、猟師さんたちに提供してあげるのが仕事になるのだろうね。
みんなの動きを私が観察している間にも包囲が進んでエゼリアさんが声を上げる。