作品タイトル不明
亡国の騎士 ⑥
ワナ猟の知識を広める前までは、“魔の森”は危険だからと森に入る人なんて滅多に居なかったそうなのに、認識が変わったのか血で逞しくなったのか、バンダースナッチと聞いても動じるどころか嬉しそうにしている。
ワナ猟の広まりで専業猟師にジョブチェンジした人ばかりだけど、現に、触角ヘビの犠牲者も出していないし、ちゃんと猟師をできてる人たちだしなあ。
「・・・うーん。ま、良っか。ルナリアー」
私の後ろで「待て」をしていたお利口さんのルナリアにバトンタッチだ。
声を掛けると、ズンズンと胸を張って出てきたルナリアが両手を腰に当てて反り返る。
「行くわよ! あなたたち!」
「「「「「おおお―――ッ!!」」」」」
質量比較で5分の1ほどしか無いだろうルナリアが飛ばした檄に、手槍や水鉄砲を高く掲げて応えた猟師さんたちの雄叫びが崖下の空気を震わせる。
脳筋の里のお嬢様と脳筋は、やっぱり親和性が高いんだな。
この一体感は私では出せないものだろう。
一気にヒートアップして、ドドドドドと勇ましい足音を響かせるオジサンたちが、土埃を上げて階段へと雪崩れ込んでいく。
「フィオレー! 行くわよー!!」
「・・・ああ、うーん!」
ハイテンションな一団を呆然と見送っていたら、つづら折りの階段で手招いているルナリアから催促が飛んできてしまった。
お母様たちも崖上で待ってるし、早く行かなきゃ。
階段を上がって崖上へ着くと崖上の門はすでに開ききっていて、ダーナさんにノーアを預けたお母様が腕組みの仁王立ちで待っていた。
「来たか。―――、行くぞ」
「「「「「はっ!!」」」」」
私の到着を確かめると、ノータイムでお母様が身を翻し、エゼリアさんたちを筆頭に気合いの入った返事を返して、みんながお母様の後に続く。
迷い無く先頭を切って進むお母様は獲物の位置を正確に捕捉していて、一直線に獲物の元へ向かっているんだろうね。
エレーナさんとノイエラさんの手に魔石が握られているっぽいところを見ると、アクティブソナーの練習中かな?
良いね良いね。
二人とも魔法寄りだし、防御術式が得意なノイエラさんが、アクティブソナーや魔力の手の概要を聞いて黙っているわけが無いよね。
エレーナさんだってノイエラさんと同じだ。
エゼリアさんたちは私がボス犬を握り殺したのを目の前で見ていたし、安全に敵を殺せる有用性を認めれば習得に意欲を燃やすのは当然だろう。
エゼリアさんたちが技術を吸収すれば、エゼリアさんたちだけじゃなくお母様たちの安全も高まる。
万が一にも戦場で武器を失ったときだって、生還できる可能性が高くなる。
私としては、一度世に出たものは隠しきれないと考えてるんだけど、エゼリアさんたちは嫁入り先で技術を広める気は無いらしいんだよね。
隠し球というか、自分の切り札として隠しておくつもりらしいんだよ。
まあ、よくよく考えれば、テレサと同じで、そうした方が良いのかも? と、考えさせられた。
特に、嫁に行った後のエゼリアさんとアンリカさんは、社交の場へ出る機会も増えるのだろうし、社交の場というものが私の想像するような武器の携行を許されない環境だとすれば、装飾品に加工した魔石を身に付けているだけでも圧倒的な優位に立てる。
王妃様やテレサの傍にエゼリアさんとアンリカさんが居るだけで、社交の場での安全性が爆上げされるのだから、ぜひとも、エゼリアさんたちには習得してから嫁に行って貰いたい。
アクティブソナーと魔力の手はピーシーズにも仕込んでおかないとな。
交代要員で王都へ駐留している間に、テレサとアリアナさんにも伝授しておいて貰わないと。
この二つは、きっと二人が身を守る役に立つはずだ。
私を現実世界へ引き戻したのは、目の良いイディアさんの声だった。
「居ました」
ワナと頭上の両方を警戒しつつ進む緩やかな隊列の先頭付近で、イディアさんが前方を指している。
空気にピリッと緊張感が増して、全員がイディアさんの指す方向に目を凝らす。
うーん? 私の目には、どこに居るのか見えないな。
夜が明けて明るくなったとはいえ、森の中は「濃い日影」程度には薄暗い。
ほとんどの人は方向を指されても見えないようで、「あっ」と声を上げたのはナンナちゃんぐらいだった。