作品タイトル不明
亡国の騎士 ③
地上50メートルってビルやマンションだと普通に有るし、結構、日本全国にそのぐらいの高さの展望台が有ったはずだけど、こっちの世界だと本当に珍しいんだろうね。
だって、有名どころで言えば大坂城の天守閣がそのぐらいの高さだったはず。
王城の見張り塔は遙かに背が高いけど、滅多なことでは王都へ行く機会も無い、「辺境の中の辺境」とまで言われるウォーレス領の領民からすれば、とんでもない高さだよ。
「あれって、祈ってるのかしら」
「・・・そうかも」
ポックポックと長閑な蹄の音を響かせている馬列に気付いた人たちの中には、こっちに向かってお辞儀をしたり手を振っている人も居る。
珍しくて見に来た人でも碑文を見れば慰霊碑の意味を理解してくれる人が居るだろうし、もしかすると、昨日の内に情報が伝わったのかも知れないね。
何にせよ、亡くした家族や親しい人のために祈りを捧げる場所になって、祈ることで今を生きている人たちの心が安まるのなら、魔力を振り絞って建てた甲斐が有ったというものだ。
採掘場までの直線道路は触角ヘビの襲撃も無く、平穏なまま採掘場に到着した。
兵士さんたちが鞍から下りた私たちの馬の手綱を預かってくれて、エゼリアさんたちとピーシーズとミセラさんたちを引き連れてキャットウォークに上がる。
お母様も一緒に囲いの底を覗き込むと、今朝もかなりのシカが増えている。
果たして、「増えている」のか、ゲームの雑魚キャラのように「 湧き直し(リポップ) 」してるのか。
体育館ほどしか広さがない狭い場所に、結構な密度で閉じ込められているのに、暴れるわけでもなく争うわけでもなく、「大きな群れ」と言っても良い数のシカがウロウロしている。
これ、ゆっくりとは言え動き回るから、シカの数を数えるのが大変なんだよねえ・・・。
大体、いつもは出荷を担当する全員で数えて、平均値の半数を出荷して貰ってるんだけどね。
「・・・どのぐらい居る?」
「120―――、130頭ぐらいですね」
ナンナちゃんからフワッとした数が返ってきて、ピーシーズの面々が頷いている。
みんな自信が無いんだろうなあ。
てんでバラバラに動き回るものを数えるのは、そのぐらい難しい。
ヤル気に満ちたルナリアが 主導力(イニシアチブ) を発揮する。
「じゃあ、出荷は60頭かしら!」
「・・・50頭ぐらい残せば良いんじゃない?」
ちょっと出荷数が少ないな。
「増えている」のだとすれば、70~80頭が2倍に増えれば明朝には140~180頭がひしめいている可能性が有る。
半数を出荷するルールは分かっているけど、明日は城壁の移動予定日だから不測の事態は避けたいし、ダンジョン疑惑が有る以上、シカが増えすぎないように安全マージンは多めに取っておきたい。
「じゃあ、だいたい70頭で! 始めるわよ!
「「「「「はっ!」」」」」
即座に修正してルナリアが出荷作業開始の号令を出す。
ルールから逸脱することにモヤッとする人がいるかも知れないし、微妙に中間ぐらいの数字を選択したのは良い判断かな。
お母様から「判断は早く、正確に」と教わったことを実戦しているルナリアが偉い。
お母様も満足そうに頷いているし、エゼリアさんたちからもミセラさんたちからも異論は上がらず作業に参加している。
うんうん。良い感じ。
じゃあ、みんなが作業している間に私は次の作業をしておこうかな。
出荷作業が進むキャットウォークの端っこに避けて私が崖上へと目を向けたら、ポンと頭の上に何かが乗った。
この感触―――、振り返って見れば、予想通り、私の頭へ手を伸ばしているお母様だった。
「何をするつもりだ?」
「・・・今のうちに崖上のワナに掛かってる魔獣の気配を―――、あっ!」
しまった。魔力を使うなと言われてるんだった。
ぐりぐりと撫でられる。
「不測の事故を避けるのに、一昨日も、そうやっていたんだな?」
「・・・うん」
素直に白状すると、お母様がニヤッと悪戯っ子のような笑みを浮かべた。
「ヨシ。私がやってみるとしよう」
「・・・おお」
さては、もう魔力の手をマスターした?
アクティブソナーもマスターしてたしね。
さっすが、お母様!
お母様は西部地域へ戦争に行く前には魔石の魔力を使いこなしていたし、アクティブソナーも魔力の手も理屈が分かればお母様に出来ないわけはないと思ってたけどね。
いや、違うか。
この場合、アクティブソナーを使うぞ、って意味だったのかな?
どのみち結構な広範囲になるけど、お母様なら自前の体内魔力でやりそうだよね。
ついでに消費魔力量の感覚を掴む実験ぐらいには考えてそう。
まあ、お母様が楽しそうで何よりだ。