作品タイトル不明
亡国の騎士 ②
日本人標準とこっちの世界の標準では違うのかも知れないけど。
シェリアお婆様の後を追って席を立ってきたお母様が、私の胸の前に向けて手のひらを翳す。
これは、いつもと同じく魔力量を測られてる?
明確に数値化できるわけじゃないけど、記憶に有る魔力の強弱ぐらいは肌感覚で分かるからね。
されるがままの私を見下ろしながらお母様も小さく首を傾げる。
「お前、また随分と魔力量が増えてるな」
「・・・あー。あのムズムズかな?」
じっとしていられないような体力が有り余った感じ。
ふむふむと頷く。
昨日よりは落ち着いているけど、胸の内側へと意識を向ければ体力が有り余った感覚は今もある。
この感覚は、今までの魔力がザワザワしていたときや魔力酔いになったときにも有ったのだろうけど、私の魔力に対する感覚が鋭くなったことで感じ取れるようになった可能性が高いね。
「そう言えば、昨日も落ち着かないと言っていたな」
「ふむ・・・。体内保有魔力量の増加に体が追い付こうとしているのかも知れませんね」
記憶を探りながら私の顔を見るお母様とは少し違った感じで、思案顔のシェリアお婆様も私の顔を見る。
私も首が傾く。
「・・・ん? 魔力が体の許容量を超えるようなことが有るんですか?」
お婆様の言い方だと、「飽和」ではなく「 充溢(じゅういつ) 」じゃないかな。
コップに水を注ぎすぎたように「溢れかえった」って意味。
体が成長しようとするときに睡眠時間が増えるというか、よく食べてよく眠ることは、日本に居た頃に体験したようにも思う。
あの頃は狩猟のコツを覚えてコンスタントに獲物を獲れるようになった頃だったから、お腹いっぱい食べられるようになったせいかと思ってたけど。
思えば標準的な成長期と年齢的に合致していたはずだ。
またしても、お母様に「お前は何を言っているんだ」って感じの目を向けられた。
「魔力酔いが、まさにその状態じゃないか」
「・・・あ。そっか」
なるほど。その通りだ。
「記録に残る数少ない症例の何割かが貴女になりますね」
「・・・あ。ハイ」
仰る通りです。サーセン。
シェリアお婆様は目を細めて冗談めかして言ったけど、言葉の裏を返せば「もっと注意しなさい」ってご指摘だ。
全く以て返す言葉もございません!
即座に降伏して頭を下げた私に、お母様が苦笑する。
「魔力は体内で作られるという説や、食事や呼吸で外部から吸収するという説は有るが、消費した体内魔力がなぜ回復するのかさえ推論ばかりで解明されていないんだ。魔力酔いがなぜ起こるかも推論の域を出ないし、体の許容量を体内保有魔力量が上回ることが無いとも言い切れん」
「・・・その異常事態に順応しようと私の体が私を休ませようとしてる?」
「分からん。だが、そういった可能性も有ると覚えておけ」
分からんのかい。
相変わらず清々しいな。
お母様は推測の域を出ないって言ってたんだし、答えを急ぐ方が間違いだったね。
「・・・はーい。無理はしません」
「そうしなさい」
無理をしないと誓約させられたところで話が切り上げられて、時間が押してるんだからさっさと食えとばかりに朝食をお腹に詰め込まされた私たちは、追い立てられるように採掘場へと出勤する。
通常シフトの人数で集まった猟師さんたちの荷馬車を引き連れて、馬列の先頭で守備兵さんたちに見送られて北門を出る。
「んん? 何アレ?」
「何かしら。人が集まってるわね」
直線道路への曲がり角が見えてきた辺りで、夜明け前の薄暗がりの中、聳え立つ慰霊碑の足元に何人もの人影が集まっている姿が見える。
荷馬車で乗り付けている人や大きな荷物を背負っている人が居るところを見ると、市場に店を出しに来た領民の人たちかな?
こうして見ると、やっぱり地上50メートルはデカいな!
200メートルは離れた街道からでも見上げるほどの高さが有るし、遠目に人間の大きさとの対比を改めて目にすると、建てた張本人でも慰霊碑の大きさを実感する。