作品タイトル不明
西方よりも ㉙
ふむふむ。行程は推定30キロメートルか。
障害物のない平地を大人の足で歩けば、1分間あたり80メートルとして時速4キロメートルちょい。
森の中だと半減すると仮定すれば、ザックリ時速2キロメートルだ。
日中の活動可能時間が小休止を挟んで実働8時間と考えれば、最大移動距離は16キロメートルになる。
鍛え上げられた人員なら、実際には、2割増しぐらいの距離は稼げるんじゃないだろうか。
「・・・大人の足で強行軍なら、早ければ1日。遅くとも3日も有れば歩ける距離?」
「そういうことだ。魔獣の脅威さえ無ければ大した距離ではない」
だよね。ハインズお爺様が満足そうに頷く。
私の見積もりは間違っていなかったらしい。
「・・・携行する兵站が少なくて済むなら、身軽だから、もっと移動距離は稼げますよね」
「待て。兵站を減らすのか?」
希望的観測を言い足した私を、マルキオお爺様が驚いたように見る。
ナイフフォークを手にお皿のお肉と格闘しているノーア以外の目が私へと集まった。
なぜに?
「・・・派手に爆発音を立てればお肉がたくさん飛んで来るんですよね? お肉しか食事が無いと飽きるかも知れないので、携行食糧無し、とまでは行かないでしょうけど、あまり持って行く必要は無いのでは?」
面白そうにニヤニヤ笑っているお母様とお肉を頬張っているノーア以外の全員が、目元に手を当てて溜息を吐いた。
なんでルナリアまで?
「相変わらず、お前は魔獣を食料としか見ぬのだな」
何とも言い難い微妙な表情でマルキオお爺様が零し、ハインズお爺様とセリーナお婆様が大きく頷いている。
戦略物資が採れる貴重な資源だとも見てるよ?
90%以上はお肉だと思ってるけど。
お父様が咎める目で私を見た。
「言いたいことは分かるが、行軍は不確定要素を最小限にするのが基本だぞ?」
「・・・そっかあ。そうですよね。軽率でした」
確かにお父様の言う通りだ。
捕らぬ狸だもんね。
素直に撤回するとシェリアお婆様が満足そうに頷いた。
ほんの数拍ほどの間、思案する様子を見せたハインズお爺様がマルキオお爺様を見る。
「軽視するのは良くないが、気負い過ぎも良くないか?」
「ま。一考の余地は有るな。兵が多くなれば魔獣から守らねばならん。少数精鋭で良いのではないか?」
マルキオお爺様の答えに言葉を返したのはお母様だ。
「”魔の森”の踏破はルナリアとフィオレの箔付けにも使えるが、私も同行する。多少の兵站を運ぶ必要は有るだろうが、無駄に兵が居たところで却って邪魔になる」
「確かにな。多くの兵を動かしても意味は無いか」
お母様の意見にハインズお爺様も頷く。
流れ的にエゼリアさんたちとピーシーズが主体で、領軍の騎士様を補強戦力に付ける方向かな?
騎士様たちを動員するなら、あっちを鍛える機会にしたいなあ。
今日はジアンさんがピーシス領に戻ってたみたいだから、何も動いていない、とは思わないんだよね。
「・・・連れて行くのはピーシーズ増員の新人部隊じゃダメですか? 飛行型はルナリアもジアンさんも魔力の手を使えるようになりましたし、警戒は私がします」
「待て。新人部隊だと? 子供ではないのか」
「反抗的な態度だったとも聞いたが」
うわー・・・。血族の長の耳にまで入っちゃってるよ。
新人部隊と聞いてハインズお爺様とマルキオお爺様が眉根を厳しくしている。
そりゃまあ入るか。
ちょっとだけフォローしておくかな。
「・・・同行する兵員を私たちが守ることになるのなら大人も子供もありません。生死が懸かった状況に追い込まれれば弛んだ性根も叩き直せるでしょうし、森の奥から生還した自信が有れば多少はマシになるんじゃないでしょうか」
「手厳しいのう」
お爺様たちが揃って片眉を上げた。
いやいや。将来の芽を摘みきってしまわないために更生の機会を与えてあげるんだよ?
せっかくの鍛える機会を死守しなきゃ。
切り捨てるのは簡単だけど、ジアンブートキャンプが始動するのだとすれば、更生に期待してみたい。
「・・・そうでしょうか? 少なくとも、ルナリアに対して舐めた態度を取らないように教育する必要が有ります」
「わたしに対する態度はどうでも良いけど、口先ばかりで使えないのは困るわ」
ちょっ、ルナリア!
切り捨てるのは避けたいけど、簡単に許し過ぎるのも本人たちのためにならないんだよ!