作品タイトル不明
西方よりも ㉘
でも、個別に攻撃が当たらないなら、一網打尽で焼くのは間違いじゃない気がする。
木々という障害物が有る森の中では、位置取りに留意し続けていないと満足に武器が振るえないだろうね。
みんなが頭上から襲い来る飛行型魔獣の群れに気を取られて、団子状態になったりすれば大混乱に陥るのも無理は無いかも。
何となく被害を出したときの状況が想像できてしまった。
「ラウネも出ただろう。頭上と足元の両方を警戒せねばならんわで、随分と神経を削られたものだ」
「ドラゴンフライとガルダは飛行型で、バジリスクとラウネは毒持ちだな」
うわあ・・・。目も当てられない恐慌状態だったんだろうなあ。
ラウネって死体に産卵する大きな蜘蛛だっけ。
お母様が面倒くさそうな溜息を吐く。
「ラウネのせいで馬も使えんのか。神経を削られるわけだ」
「・・・死体に集る蜘蛛が居ると馬が使えない?」
どういうことだろう?
蜘蛛と馬の関連性がイマイチ腑に落ちない。
「馬上からでは見えんのだ。馬の足を噛まれれば無駄に馬を死なせるだけでな」
「・・・馬上から見えない・・・? もしかして、下草が生えてるんですか?」
馬上から足元の魔獣が見えないとなると、考えられるのは目視を遮る障害物の存在ぐらいだ。
私が思い至った答えにお父様が目を細めて頷く。
「よく分かったな。河畔を遡上する場合、川から陽が差し込むせいか下草が多いのだ」
「・・・ふーん? なるほどお」
採掘場周辺とは植生が違うっぽいな。
野イチゴを取った広場みたいな感じで差し込んでくる日照が有るわけだ。
水辺で湿度が有るならシダっぽい下草が茂ってるのかも。
一人で納得している私の肘を、ルナリアが肘で突っついてくる。
「下草が生えてると何か拙いの?」
「・・・下草や灌木が多いと隠れる場所ができるんだよ。馬上から見つけるのは至難の技だと思う。普通は、だけど」
片手で 庇(ひさし) を作って、庇の下でワニワニと口をパクつかせる手真似をして見せると、ルナリアは但し書き部分にしっかりと食い付いてくる。
「普通じゃない場合が有るの?」
「・・・私たちは先に見つけられるんだよ? 茂みに隠れてる魔獣が居るなら、その茂みに魔法を撃ち込んでやれば良いんだよ」
予防的先制攻撃だよ。
「疑わしきは焼く」理論でバンバン焼いてやれば良い。
ガルダが飛んでくるなら焼き鳥パーティーだ。
派手にズンドコと撃ち込んでやれば、焼き鳥の方が自分から飛んできて、食料を持って行く必要が無くなるかも知れない。
「しかし、その下草も、それほど多いわけでは無かったからな。川に近付けん以上、飼い葉の問題は残る」
「・・・やっぱり馬は使えないんだ」
ふむ。魔獣以前の問題で、歩き移動は確定か。
ルナリアと二人での逃避行を思い出して体力的な心配が頭を過ぎったけど、あの頃とは私たちも基礎体力が違う。
歩きでも大丈夫じゃないかな。
私もアクティブソナーを頑張るけど、触角ヘビ発見率が高いノーアも居れば近くに潜む魔獣の危険は格段に低くなるはずだ。
飼い葉から兵站計画に意識が移ったのか、お父様が質問を変える。
「敵が用いた渡河地点の予測は付いているのか?」
「まともな渡河地点なら100キロメテルほど上流になるが、そこまで奥地では有るまい」
「どういうことだ?」
即答するハインズお爺様の自信ありげな答えに、お父様が首を傾げる。
「上流から流れてきた死体の数が纏まりすぎていたからだ。恐らく、渡河で出した損耗は100人以上。100キロメテルも上流ならば下流へ流れ着くまでに分散するだろう」
「まさか、魔獣が棲む川を泳いで渡河したのか? 相当な危険を冒したようだな」
「ご苦労なことだ。だとすれば、精々、20~30キロメテルと言ったところか」
レティアの防衛陣地に流れ着いた死体の検分から導き出された予想が披瀝され、お父様とお母様が、首を振りながらそれぞれの感想を口にする。