作品タイトル不明
西方よりも ㉖
「ああ、なるほど。だから、大事なのは質なのね?」
「質の違いが知覚できるなら、離れた場所に潜んでいる魔獣の探知も可能ですね」
第一段階の「自分の魔力を認識」ができるなら、第2段階で放出した後も「魔力の認識」を手放してはダメなのだ。
それが「魔力制御」の技術でも有るのだけど、「自分の魔力」だけを認識しようとしていたから、「雑音」をシャットアウトして「質の違い」に気付けていなかっただけで、認識しようと「雑音」に耳を傾ければ、認識できないわけが無いんだよ。
だって、放出した魔力は「自分自身と繋がったまま」なんだから。
「お前たちが飛んだこととの関連は何だ?」
マルキオお爺様という優れた魔法術師を右腕に持つハインズお爺様は、そこでギブアップして「次」へと思考を切り替えたようだ。
ハインズお爺様はフィジカル特化で王国騎士の頂点に君臨した人だから、これは仕方ないよね。
身体強化魔法は「体内での魔力制御」が重要で、ハインズお爺様にとって「魔力の放出」は専門外だし。
「・・・魔力を伸ばせるのなら、伸ばした先で防御術式を使えますよね?」
「防御術式だと?」
私の答えにハインズお爺様が首を傾げる。
訊かれた質問に対する答えじゃないように聞こえるかも知れないけど、聞いてね?
そのものズバリ、これが質問に対する答えだから。
「・・・ジアンさんから聞いたのですが、ジアンさんは目の前に硬い壁が有ると想像して防御術式を使っていたようです。恐らく、剣術の防御に用いる盾から連想したものだと思うのですが」
「騎士であれば、それが普通であろうな」
ハインズお爺様が頷く。
「魔力の放出」を得意としていないハインズお爺様も、防御魔法では「魔力の放出」をしている。
力任せにブワッと放出しているだけでも「魔力の放出」には違いない。
どうやら、フィジカルを得意とする騎士様の防御のイメージは、剣術の防御に使う「盾」っぽいんだよね。
盾とは身を隠して敵の攻撃を防ぐ「壁」―――、「障害物」なんだよ。
「・・・盾ではなく、単に魔力をギュッと固めると想像してみてください。盾とは、ただの障害物です。魔力を固めただけのものも盾と何ら変わりの無い、ただの障害物です」
「ふむ。確かに、そうでは有るな」
ハインズお爺様も、そこは理解できたのか大きく頷く。
「・・・ただの認識の問題なのです。自分が放出した魔力を固めただけのものなら、防御魔法は好きな場所へ自由に動かせます」
「むむっ。放出した魔力を固めただけのもの」
おもむろに目を閉じて集中し始めたハインズお爺様に、ブフッと噴き出しそうになった。
ハインズお爺様も理解を諦めてなかった!
ハインズお爺様はアリアナさんと同じ脳筋村の住人だから、目で見た方がイメージしやすいかな?
「・・・そうすると、こんなことが出来ます」
魔石を通していない自前の体内魔力で魔力の手を伸ばして、食卓テーブルの上に並んでいる燭台を持ち上げてみせる。
放出した魔力に色を付けられれば分かりやすいのになあ。
何度か小さく頷いて情報を咀嚼していた様子のマルキオお爺様が、目の前の卓上に有る水のグラスへと目を向けた。
「どれ・・・。ああ、掴めるな」
フワッとグラスが浮いて、マルキオお爺様が納得を見せた。
絡繰りが理解できれば習得は簡単なんだな。
ただ、体内魔力を使うと魔力を放出し続ける必要が有るから消耗が早いんだよね。
だから、ジアンさんには魔石使用法を先に覚えて貰ったんだよ。
「それが、貴女がジアンに与えた”魔力の手”なのね」
「・・・はい。魔力の手で物を持ち運べるなら、自分の体重を支えるぐらいは出来るはずです」
セリーナお婆様の最終確認に大きく頷いて返す。
ここからがルナリアミサイルの謎解き。
応用編の種明かしだ。
「で。実際に自分の体を持ち上げてみたら、周りからは飛んでいるように見えた、と」
「・・・そういうこと。50メテルでも100メテルでも、高い場所へ上がれば遠くまで見えます。ナーガ川の対岸で陣形を整えている敵陣も、コソコソと隠れて移動している別働隊も丸見えです」
お父様の確認に頷いて返す。
ハインズお爺様とマルキオお爺様の関係のように、お父様にはお母様という魔法技術に精通した右腕がいるからフィジカル寄りだけど、お父様は別に魔法が苦手なわけでは無いと聞いている。