作品タイトル不明
西方よりも ㉒
「待て待て。森の奥などという危険地域に子供を行かせられるわけが無いだろう」
「・・・むー。でも、お父様たちやお母様たちが居てくれる今が最大戦力だと思うんだよ。今やっておかなければ、将来、もっと厳しい条件下で行うことになると思うんだよね」
そりゃまあ、絶対に、そう言われると思ってたけどさあ。
いつやるの? 今でしょ!
「ふむ? 一理あるな」
「おい。フレイア?」
思案顔になったお母様に、お父様が咎めるような声を上げる。
そんなお父様を、苦笑したお母様が手で制する。
その上でお母様の目が私に向けられる。
「だが、ハロルドが言うように、森の奥地とは採掘場周辺のような”森の入口”では無い」
「・・・相応に危険ってことだよね?」
舐めてるつもりは無いけど、お母様の指摘に頷いて返す。
私としては、その具体的な脅威を検討した上で可否を判断して欲しい。
「ああ。相応の犠牲者を覚悟しなければならない程度にはな。以前の調査が行われたときにも、多くの死傷者を出していたはずだ」
「・・・具体的に想定しておくべき魔獣って何が居るの?」
過去には、そんなに被害が出たのか。
亡くなった人たちに対する心情的な問題も有るだろうし、「危ないから止めなさい」と言いたくなるのも無理はないか。
私には情報が不足しているから、情報が無いと迂闊に反論も出来ないな。
「先ずはドラゴンフライだ。ナーガ川に沿って遡上する以上、避けては通れん。次にバジリスクやバイコーン。他にはガルダや、今ならバンダースナッチが居るかも知れん」
「・・・ガルダ・・・? ああ、焼き鳥かあ」
ドラゴンフライは一先ず横に置いて、聞き覚えが有る名前が出たと思い出してみたら、潜入工作部隊を襲ってたヤツじゃん。
”蒼焔”に巻き込まれて、こんがり焼けてたデッカい鳥型の魔獣。
焼き鳥はレティアの町に運ばれて屋台に並んだそうだけど、焼き鳥の売上の一部と魔石は、ちゃんと領主館に届いてた。
お父様とお母様が怪訝な表情で揃って首を傾げる。
「焼き鳥だと?」
「・・・前回の侵攻で、森の奥を通って潜入してきたカリーク兵と一緒に”蒼焔”で焼いたんだよ。食肉加工場へ卸したら買い取った人が居たらしくて、市場の屋台で売ったらバカ売れして即日完売だったらしいよ?」
二人の耳に入っていなかったらしい事後処理の情報を提供する。
お父様は何とも言えない表情に変わって、お母様は興味深そうに表情を緩める。
「ガルダの肉は臭みが無くて旨味が強いと聞くからな」
「・・・そうらしいんだよ。塩を振っただけの串焼きなのに、すごく美味しかったって、勤務明けに串焼きを買って食べた兵士さんが言ってた」
「ほう? そんなに美味いのか」
分かる分かる。気になるよね。
丸投げで、すっかり忘れていて食べ損ねた私としても、すごく気になってるんだよ。
だから、私はどうすれば焼き鳥を食べられるかを考えた。
「・・・1キロメテル圏内を飛んでくれれば捕まえられると思うよ」
「1キロメテルなら対岸側へ渡る必要は無いな」
そそ。魔力の手を伸ばして飛んでるヤツを掴み捕りすれば良いんだよ。
”蒼焔”がどういうものかを知っているお母様は、私の魔力の手が1キロメートル先まで届くことに驚いたりしない。
味方だと思っていたお母様の雲行きが怪しくなってきたことに、お父様がこめかみを揉み始める。
「待ってくれ。君らは何の話をしている?」
「ジアンのアレの話だ。フィオレはアレを1キロメテル先まで伸ばせると言っている」
「・・・そう。魔力の手」
目の前に魔力の手をニュッと2本出してウニョンウニョンさせてみるけど、見えていないだろうなあ。
噛み合うようで噛み合わない会話に、お父様が核心部分に気付いてくれた。
「うん? 空を飛ぶ魔獣は脅威では無いと?」
お? ジアンさんの名前がヒントになったかな?
私もボス犬で気付いちゃったんだよ。
盗賊も魔獣も同じだった。
捕まえてしまえば、どうとでも処理できる。
「・・・焼き鳥ぐらいの大きさなら問題無さそう? 強い魔獣なら、居れば分かるし」
「バンダースナッチの接近を察知したのと同じヤツか?」
私が返した言葉に反応したのはお母様だ。
ジアンさんかルナリアから昨日の朝の話を聞いたのかな?
そこなんだよ。
アクティブソナーを使えば、そこまで危険は大きくないと私は考えている。
「・・・同じぐらいの距離まではイケると思うよ」
「御大の頃とは脅威の前提条件が変わってくるな」
「なるほど。ちゃんとした話し合いが必要なようだ」
私の自信の意味を正確に理解してくれたお母様の様子に、お父様も深掘りする気になったようだ。
何が出来て、どう有用性があるのか、その辺りも加味して判断して欲しい。