作品タイトル不明
西方よりも ⑳
「色々と訊きたいことは有るが、後で構わん」
「ああ。ご苦労だったな。各方面への牽制には十分だろう」
「お疲れさん。最後まで、よく頑張ったな」
お爺様たちとお父様に、順繰りに撫で回される。
訊きたいことって、まあ、アレのことだよね。
「・・・うん。がんばった」
「ヨシヨシ」
撫で繰り回されながら返事をしているとお母様のぐりぐりも来た。
「随分と高い場所へ上がっていたようだが、上で何をしていたんだ?」
「・・・天辺の表面も綺麗に加工しに行ったんだよ。ルナリアと景色を見たけど、ナーガ川の対岸まで見えてたよ」
「ほう? そこまで見えるのか」
おっと。興味あるっぽい?
ほんの僅かだけど目付きが鋭くなったのを見逃さなかったよ。
ナンナちゃんの案を、ちょっと売り込んでみるか。
「・・・ただ、50メテルの高さでもナーガ川は見えなかったから、渡河地点まで一望できるようにするなら城壁内の南門近くに建てる方がいいかも」
「これを城壁内に建てるつもりか?」
お母様だけでなく、お父様とお爺様たちまで慰霊碑を見上げる。
「・・・ピーシーズから提案が有ったんだよ。建てるなら見張り塔になるんじゃないかと思うけど、そこまでするなら河畔にちゃんとした砦か関所を建てた方がいいかなあ」
「いや。一考の余地は有るだろう。レティアの町を拡張して河畔に防壁を築く案は大昔から有ったのだがな。魔獣の巣に築くのは危険すぎて出来なかったのだ」
提案に答えたのは、意外なことにハインズお爺様だった。
「・・・魔獣の巣って、ナーガ川?」
「 雷蜻蛉(ドラゴンフライ) だな。レティアの城壁も河畔から少し離れてるだろう? 大昔には橋が架かっていた時代も有ったそうだが、いくつかの橋脚を置くだけで数百人もの犠牲を出したそうだからな」
ドラゴンフライって、アレだよね。
森の奥へ迂回して攻めて来た敵部隊に大打撃を与えたらしい虫型の魔獣。
アリアナさんたちが潜入部隊の存在に気付く切っ掛けになった、鳥型の魔獣を引き連れて来た人たちがナーガ川でヤラレたヤツだ。
「・・・ナーガ川の水際って無防備? ってわけないよね。前回のカリーク侵攻でもお爺様たちが防衛線を張ってたし」
「河畔に築くのは防塁ぐらいだぞ。水辺に居るだけで危ない」
「・・・そうなの?」
危ないのはドラゴンフライで、この場合、カリーク公王国軍は眼中に無さそう?
水辺に居るだけでも危ないってことは、水中から飛び出てくるの?
いや。虫だから脚が生えてるのか。
群れる魔獣だって聞いたし、黒光りしてカサカサと這い回るアレっぽい動きで這い上がって来るんだろうか?
私は平気で始末する方だけど、デッカい奴に何十匹もワサワサと 集(たか) って来られたら、さすがに“蒼焔“を落とすかも。
あれ? 待てよ?
雷蜻蛉って聞いたから、ヤゴなのか?
ヤゴなら魚釣りのエサになるし、燃やすのは無しだな。
「渡河部隊を川の流れの中で釘付けにして上陸さえ阻止すれば、奴らは勝手に魔獣被害に遭うぐらいだからな」
「極めて防衛しやすく、逆に渡河して攻め入りやすい。レティア卿がこの地に砦を築いた最大の理由だな」
レティア卿の防衛戦略は、地勢的な優位性だけじゃなく魔獣の生態まで組み込んだものだったのか。
本当にすごい人だったんだな。
それを500年も維持し続けて国境を守り通してきたウォーレス家もすごいけど。
「・・・水棲で虫系の魔獣だっけ。ドラゴンフライってそんなに危険なんだ?」
「魔力に寄ってくる習性が有ってな。大きく育つと春先の月夜に羽化して森の奥へ飛び去るようなんだが、水の中に棲んでいるだけ有って生態がまるで分からんのだ」
レティアの町の目の前にしかナーガ川に渡河地点が無い理由の一つも、その魔獣かな?
かなりの数が棲息してそうだよね。
魔獣ってことは、魔石も持ってるんだよね?
そーか、そーか。魔石かあ。