作品タイトル不明
西方よりも ⑱
「危なくない下り方にしてよね!?」
「・・・分かった分かった。怖くないようにするから」
人畜無害アピールが通じて野生のルナリアをテイムすることに成功した私は、ルナリアを負ぶって上ったときと同じように固定する。
よぉし。帰りも張り切っちゃうぞ。
再び不穏な空気を察知したらしいルナリアに、ビニョーンと両側の頬を引っ張られた。
「ご安全に!!」
「・・・ハッ!! ご、ご安全に!!」
いけない、いけない。
現場でふざけるなんて事故の元だ。
気を引き締めて真面目に取り組もう。
「・・・目を瞑ってても良いけど、下を見ちゃダメだよ? 上を見てるか、遠くの景色を見てるかしないと、高さを実感して怖くなるからね?」
「先に教えてよ!!」
あれ? 教えなかったっけ?
首を傾げたら、また頬っぺたをビニョーンと引っ張られた。
再び、ちょっと通りますよ、と、魔力の手を伸ばして2段目に突き、念のため、石碑を2本の魔力の手で捕まえて下りていく。
上ったときの逆回しで石碑と向き合っているから、視界のほとんどは石碑の側面だ。
ルナリアは私の首っ玉にギュッとしがみついていて、叫ばずに大人しくしている。
チラッと返り見れば、お利口さんに遠くの景色を眺めているようだ。
「・・・ハイよっと。到着」
「はあああああああ・・・」
靴裏が2段目の上面を踏みしめてルナリアに状況を告げると、内臓まで吐き出しそうな溜息を吐いてルナリアが両腕の力を抜いた。
両足を着いて靴裏に大地の感触を確かめたルナリアは、ぺたんと座り込んで愛おしそうに2段目の上面を撫で始めた。
そんなに気に入ってるんだ? 慰霊碑。
とはいえ、ちゃんと表面処理しないと手触りが良くないだろうからね。
天辺と同じように魔力の手を広げて加工を始める。
「お二人とも、ご無事ですか!?」
「うん・・・。大丈夫よ」
地上で見守っていたピーシーズがピョーンと飛び上がってきて、大人の階段を上がった口調でルナリアが答えている。
煤けた感じの声に聞こえたのは気のせいだろうか?
四方の側面もツルツルに加工して回る。
「空を飛んでいるように見えましたが!!」
「今のは何だったのですか!?」
「待って! わたしもまだ整理できていないから、待って!」
黙々と作業中の私の代わりにルナリアがピーシーズに囲まれて質問責めに遭っている。
聞こえてくるピーシーズの様子から察するに、どうやら、空を飛ぶ魔法は今まで無かったっぽいね。
じゃあ、ルナリアは、こっちの世界の人類初飛行記録に名を連ねたのかな?
搭乗した機体は、私か。
ギネスブック的な何かが有るのかは知らないけど、初飛行でルナリア株がまた高騰しちゃったな。
私の目が黒いうちはバブル化させるつもりは無いし、暴落するよりは良いだろう。
ハッ! そういえば私って黒目じゃないじゃん!
バブル化阻止計画が早くも危機的状況に!?
3メートル下の1段目の上面へピョンと飛び降りて、上面を加工。
3段目、2段目と同じように1段目の四方の側面も加工して回った。
「・・・ヨシ! これで本体は完成!」
碑文を書いたときの足場の上へ、4メートルの高さをピョンと飛び降りる。
さらに3メートルの高さを飛び降りると、地上でミセラさんたちが待ち受けていた。
「お帰りなさいませ。終わりましたか?」
「・・・ただいま。後は献花を置く供物台でも作っておくかな」
足場の形状を変えて高さを70センチメートルほどに下げる。
上面だけを飾り縁のように張り出させて装飾を付けてみた。
ミセラさんたちを引き連れて供物台の上面も四方もツルツルに仕上げて回っていると、気が済むまで2段目を撫で終えたルナリアがピーシーズを引き連れて飛び降りてきた。
「フィオレ様」
「・・・どしたの? メリーナさん」
「下から石碑を見ていて思っていたんですが、この石碑、もう少しだけ、こちらへ向けた方が良くないですか?」
およ。大らかで、14歳にしてバブみが強めなメリーナさんが、些細なことでご意見とは珍しいバブね。
向きって、芸術点バブー?
ここは他の審査員の採点も聞いておくべきかな?
すぐ傍で私の作業を見守っていたミセラさんを見上げる。
「・・・どう思う?」
「ああ。確かに」
およ。ミセラさんもか。
「・・・そうなの?」
「背景のバランス的に、と、いうことですよね?」
「私の感覚的に、そうかな、と、感じただけなんですが」
やっぱり芸術点だったらしい。
周りを見回すと、ネイアさんとレヴィアさんとマーシュさんも、メリーナさんとミセラさんの意見に同意を示して頷いている。
10人中、年長者5人が同意見で、ルナリアを含めた年少者と文化レベルに自信の無い6人が棄権と。
ルナリアも美的センスは有る方だと思うけど、 未確認飛行物体(わたし) が上空へ 拉致(アブダクション) していたから慰霊碑の遠景を見てないからね。
審査員入りしていれば芸術点を指摘する側に回っていた可能性が高かっただろう。
そうなれば10対6だ。
だったら、民主的な答えは出たな。
「・・・ヨシ。採用」
郷に入れば郷に従えだ。私の怪しい美的センスよりも、生粋の異世界人であるみんなの美的センスの方が異世界にマッチするだろう。