作品タイトル不明
西方よりも ⑬
高さ3メートル、横幅13メートル、奥行き2メートルの足場が私たちを上空へと攫う。
ピーシーズにすればヒョイと上れる高さだから大して心配する様子も無く見守ってくれている。
足場を踏み外して落っこちても、命に関わる高さじゃないしね。
「さあ! 書くわよ!」
「・・・ちょっと待った」
「ええっ!?」
ヤル気マンマンで石碑と向かい合ったルナリアが、出足を挫かれて、つんのめる。
「・・・ルナリア。全体は見えてないよね?」
「見えないわね」
「・・・端っこに偏ったり、斜めになったり、ヨレヨレに書いちゃったら、出来上がりが格好悪くなると思うんだよ」
1.3メートル幅の碑文を書いたときには、文句の付けようがない位置取りとバランスでルナリアは書いていた。
さすが生粋の御令嬢様だと感心したけど、それって全景が把握できる距離と大きさだったからじゃないかな。
さっき私が2段目の上でひっくり返ったとき、石碑との距離が近すぎて全景の把握ができなかったんだよね。
ルナリアなら出来るのかと言えば、物理的な距離感の問題だから無理だろうなあ。
「ふむふむ。それもそうよね」
「・・・だから、どうしたものかと」
書道というものは絵画と同じで、余白やバランスの取り方でも美しさに差が出るものだ。
文字の綺麗さだけで評価できるものではないし、美的センスがものを言う世界だ。
そして、そういった面でサラブレッドのルナリアは私よりも圧倒的にセンスが有る。
異世界文字なのに書道なのかって?
「書」の「道」なんだから書道なんじゃない? 知らんけど。
「下から、みんなに見て貰う?」
「・・・そだね。それでも難しそうだけど」
ヨレずに真っ直ぐ書くだけなら、罫線を引けば、ルナリアなら綺麗に書くだろうけど、位置とかバランスは一発勝負でキメるのはルナリアでも難しいよね。
「んー。書いてから土術式で動かせないの?」
「・・・ハッ、それだ! ルナリア、賢い!」
画像編集ソフトみたいに位置や角度を編集できれば良いんだ!
だったら、表面だけ固定して動かせば編集できるじゃん!
まさか、編集ソフトの概念すら知らないルナリアに提案されるとは!
「もっと褒めても良いのよ!!」
「・・・ヨーシヨシヨシ!」
「むふー!!」
ぺったんこの胸を張って反り返っているルナリアを撫で繰り回すと、小鼻をスピスピと膨らませて盛大にドヤる。
何だこの可愛い生物は。
心ゆくまで撫で繰り回してくれるわ!
「・・・ヨーシヨシヨシヨシ!!」
「むふー!!」
ルナリアも私も堪能したし、そろそろ仕事に掛からないとな。
魔力の手をピンと一本の糸に見立てて硬化させる。
定規はこれで良いとして、碑文を木炭鉛筆で書くのだから罫線は木炭以外で書かないと判別できなくなるよね。
むー? 土で良っか。
「・・・さて。罫線を引くかな」
足場の角を魔力の手で抉り取って粉々に砕き、チョコッと生み出した水で湿らせればペースト状になる。
魔力で生み出した石碑と自然の堆積物で出来た足場は色目が違うから丁度いいや。
すぐに乾くように水分は少なめで良いよね。
角度や位置は後で調整するから、石碑に定規を当てて一直線にペーストを擦り付ける。
「この線を目安に書けば良いのね!」
「・・・私はルナリアの字の大きさに合わせて書くから」
「分かったわ!」
ご機嫌で返事をしたルナリアが木炭鉛筆を手に改めて石碑と向き合う。
「ふんふんふふ~ん。ふんふんふふ~ん」
なぜに、鼻歌が”犬のおまわりさん”?
ルナリアは知らない歌だと思うし、「わんわんわわ~ん」を部分の音程を変えて無限リピートしているだけだから、偶然だと思うけどね。
体全体を使って大きく腕を振り、大胆な筆遣いで、サッサッサ! と、碑文を書いていく。
うーむ。箒ぐらい有る大筆でルナリアに「今年の漢字」とか書かせてみたい。
ルナリアなら達筆で芸術的に書き上げるんじゃないだろうか。
住職さんと対決するのに入場テーマのBGMとか要るかな?
ああ。自前のBGMが有るから必要ないのか。