作品タイトル不明
西方よりも ⑩
「・・・ぐぬぬ!」
私の腰がへし折れるのが早いか、地上50メートルへ到達するのが早いか!
ラジオ体操に似た動きが有ったように思うけど、こんなに激しい動きじゃ無かったよ!
かなり体力が付いたつもりだったけど、これはキツい!
ビリー何とかいうオッサンとの我慢比べエクササイズビデオじゃないけど、めっちゃキツい!
「・・・うにゅにゅにゅにゅにゅにゅにゅ!」
集中力が途切れそうになるけど、必死に知覚を繋いで魔力を制御し続ける。
や、ヤバE―――ッ!!
今にも制御を見失いそう!
それでも両腕を振り上げ続ける!
上空を見上げれば、3段目はかなり高くまで伸びているように見えるけど、石碑との距離が近すぎて、天辺の高さがどこまで到達しているのかを目視では判別できない。
体感でも、そろそろ40メートル離れているんじゃないかと思うけど、笛はまだ鳴らない。
もうすでに経過時間を計る余裕も無く、笛の音を待ち続けるしか無い。
「・・・も、も、むりいいいいい!」
いよいよ制御が分からなくなってきて、勘でやってるけど、負荷が高すぎて魔力を押し込むのも難しくなってきた。
ていうか、魔石の魔力も弱まってきて切れそうになっていて、交換するべきなんだけど、今、右手をポーチへ伸ばしたら、完全に分からなくなる自信が有るし、新たな魔石に同調する余裕なんて無い。
地上50メートルの達成を諦めて崩壊を防ぐことに尽力しようかと考えたとき、待ち望んでいた、ピィイイイイイイイ! という笛の音がようやく耳に届いた。
「・・・ぶはああああああああっ!!」
何もかもを放り出して2段目の上で大の字になる。
荒くなった息を吐いて正面に広がる冬空を見上げる。視界の3分の1以上を占めているのは15階建てのビルに匹敵する高さの巨大モニュメントだ。
やった! 私は遣り遂げた!
体の正面、上空に向けて両の拳を突き上げる。
まだ碑文の彫り込みとか鏡面加工とか仕上げ作業は残っているけど、最大の山場は乗り越えた。
息が収まってくるのを待っていると、パタパタと足音が聞こえてくる。
逆さまになった景色の中に、階段を駆け上がってきたらしいレヴィアさんの顔が現れた。
「フィオレ様! ご無事ですか!?」
「・・・あ~。レヴィアさん。休憩してただけだよ~」
思ったよりも私の返事が元気そうな声だったのか、駆け寄ってきたレヴィアさんがホッとした表情で手を差し伸べてくる。
「立てますか?」
「・・・あ~。ありがと~。少し休憩すれば大丈夫だよ~」
「では、休憩していてください」
言うが早いか、ヘロヘロになっている私をヒョイと抱き上げたレヴィアさんが階段へと向かう。
こっちの世界の―――、もとい。
ウォーレス領の女性は見た目を裏切って力持ちだからね。
手摺りも無く造りが粗い階段を、ふらつきもせず危なげの無い足取りで下りていく。
レヴィアさんが地上にタッチダウンを決めると、厳しい表情のお母様たちが待ち構えていた。
「どうした。大丈夫か?」
「・・・大丈夫、大丈夫。ちょっと休憩してただけ」
レヴィアさんの肩をポンポンと叩いて腕から下ろしてもらう。
もう、息も治まってきたし、ルナリアが碑文を書いている間に私は復活できるだろう。
自分の足で私がしっかりと立ったことでお母様の表情が緩む。
「本当に、体におかしなところは無いのですね?」
「・・・終盤の魔力制御がキツくて息が上がっていただけです。問題ありません」
心配顔のお婆様が壊れた場所でも探すように、ペタペタと私の体を検めている。
上下の瞼をムニッと剥かれて眼球の白目部分を調べられたり脈拍を取られたりと、なされるがまま健康状態を診られておく。
問題無さそうだと安堵の息を吐いたのはセリーナお婆様もだ。
「まさか、これほどまでの規模で魔力制御できるようになっていたなんて、驚いたわ」
「・・・魔力制御の規模ですか?」
先ずは巨大モニュメントの規模に驚いて欲しかったんだけど、セリーナお婆様は技術の方に驚いたようだ。
ピュアなシェリアお婆様は無事にサイズ感で驚いてくれた模様。
「私も驚きましたよ。想像していたものの3倍以上ですからね」
「・・・そうなのですか? できるだけ大きく、とのことだったので、西方で観光名所になっていると聞く神教会の石塔が、霞んでゴミに見えるように頑張ってみたのですが」
お爺様たちが「ブフッ」と噴いた。