作品タイトル不明
西方よりも ③
「ただいま!」
「・・・お帰りー。お疲れさま」
手遊びするようにルナリアと両手でペチンとタッチし合う。べんべん。
”茶摘み”歌からクンフーのようにタッチのペースが上がり始めてきたところへ、エゼリアさんたちを引き連れたお母様が馬を寄せてきた。
ちょっ!? ルナリア! 早い、早い!
べんべん、から、べんべべべべべべ! と、ペースが上がって、付いて行けなくなった私が両手を挙げて降参すると、ルナリアがコロンビアのポーズになる。
くっ! 負けた!
「おう。大人しくしてたか?」
「・・・お、お帰り~。お母様。採掘場の昇降機は建設許可を貰ったよ」
息が上がりかけた私が、早速、今日の戦果を報告すると、鞍の前に乗せていたノーアをヒョイと小脇に抱え直したお母様が、ひらりと鞍から下りてきた。
「そうか。それで、お袋殿たちは?」
「・・・もうそろそろ来るはず―――、あ。来た」
出荷分ではなくワナの回収分らしきシカを積んだ荷馬車が行き過ぎて行くのを、御者さんと手を振り交わして見送っていると、北門の方向からやってきた20騎ほどの馬列が、食肉加工場へ納品に向かう別の猟師さんの荷馬車に道を譲られている。
馬列の先頭はハロルドお父様とハインズお爺様で、マルキオお爺様とお婆様たちの後に甲冑姿のレスリーさんやライアスさんたちが続く。
手を挙げ合うお父様とお母様だけでなく、エゼリアさんたちもレスリーさんたちと手を挙げ合って、家族同士が互いにジェスチャーで挨拶を交わしている。
続々と到着した馬から下りてきたお爺様たちとお婆様たちが、私たちのところへと向かって来る。
「帰ったか! ルナリア!」
「ただいま!」
自分から寄って集って撫で回されに行ったルナリアと入れ替わりに、建設予定地をサッと確認してきたお父様がやって来る。
「変わったことは?」
「今日は特に無かったぞ。そっちは?」
お父様の問いに、ノーアを押し付けながらお母様が答える。
「大きな動きは無い。流出民の情報が多少入ったぐらいだ」
「どんな様子だ?」
ナチュラルにノーアを受け取ったお父様に、お母様が問い返す。
何の話か聞いていないらしいルナリアが首を傾げているから、後で私が訊かれるんだろうね。
「早ければ明日には領内に入るかも知れん」
「レティアへの到着は3~4日の内、といったところか」
お母様の判断もお父様たちと同じみたいだね。
難しい顔になったお母様に、お父様はポンと私の頭に手を置いてみせる。
「それで、新年の祈祷を流入民の慰撫と示威の場に使おうという話になってな」
「慰撫と示威か。―――、ふむ?」
片眉を上げたお母様の目が私に向く。
私が説明しろ、と?
「・・・え~っと。ビックリさせて意識を変えさせれば、不安から目を逸らさせられるんじゃないかなって」
「びっくりさせる、とは?」
ん? 手段を警戒されてる? 信用ないな、私!
いや、待て。諦めるな。
理を持って真摯に説明すればお母様なら分かってくれるはず。
「・・・大っきな慰霊碑で驚かせて、お爺様たちやお母様たちの姿を見れば、多少は安心するんじゃないかと」
「カリークの動きか」
あれ? なんでカリークが出てくるの?
納得したような表情で、お母様が厳しい目をお父様に向ける。
お父様はお父様で迫力の有る目でお母様の視線を受け止めている。
「狙ったと思うか?」
「かもな」
肩を竦めて返すお母様のローアングルからの横顔を見上げつつ、ここ数日で得た情報の中からカリーク公王国に関わりそうなものを整理してみる。
私たちが王都から帰還した時点で、「カリーク挙兵の徴候有り」という情報をウォーレス家は得ていた。
そして、数日中に西部方面から大量の難民が押し寄せてくる、と。
数日のズレが有るにしても、こっちの世界の情報伝達事情から考えて、ほぼ同時と言っても良いタイミングで挙兵情報と難民がウォーレス領に到達するなんて、そんなにカリークに都合の良いことが起こり得るだろうか?