軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

下準備 ⑪

「これは負担が掛からんのか?」

「・・・想定では3頭を立ったまま乗せられますので、馬への負担は無いに等しいかと」

そのためのカゴだからね。

「ほう。3頭を同時にか」

「騎馬ごと崖を上り下りできるなら、いちいち街道まで出る必要が無くなるな」

有用性を理解してくれたようで、お父様もお爺様たちも熱が入ってくる。

「・・・この模型は可動機構を目で見てご理解いただくためのものなので、この高さで作りましたが、実際に採掘場へ設置する場合は2倍強の高さになります」

「櫓の高さを調整できるのだな?」

「・・・櫓の内側を、馬を乗せたカゴが上り下りする構造ですから、櫓の高さとカゴを吊る縄の長さで地形に合わせて調整できます」

普通なら直立する構造体としての強度が問題になるから、無限に積み上げられるものでは無いんだけどね。

崖の高さよりも長い丸太を四隅の柱に使うから、梁と筋交いで撓みを抑えてしまえば、その辺の耐震構造建物よりも強く作れるはず。

「ふむ。この紐を引けば、籠の動きを理解できるわけか」

滑車を通して出ている麻糸をハインズお爺様が引くと、櫓の内側でカゴが斜めになって引っ掛かった。

拙い。ハインズお爺様の馬鹿力で無理に動かされると、せっかく作った模型が壊れちゃう。

サッと助けに入ると破壊される前にフォローが間に合った。

「・・・あ。左右を同時に引いてくださいね」

「何? 同時にか。―――、おう。こういうことか」

扱い方を教えれば、すぐに問題なくカゴを上下させはじめて、交代でモックアップを弄り出す。

ハインズお爺様が小さな模型をチマチマと弄っていると、サーカスで三輪車に乗ってる熊みたいな雰囲気になるね。

ああ、ダメダメ。

熊に例えるなんて縁起が悪い。

「紐が2本に分かれている理由は?」

「・・・重量を分散させるためです」

一から説明する必要が有ったらどうしようかと、チラッと心配したけど杞憂だった。

分散させて負担の集中を避ける概念は全員が理解している人たちなので、みんなアッサリと納得してくれた。

そりゃあまあ、2頭立ての馬車だって負荷を分散するための同じ概念だものね。

「しかし、馬3頭もの重さを吊り上げるとなると、10人は必要なのではないか?」

「・・・いいえ。カゴの重量も込みで、2人で動かせます」

「二人だと!?」

ハインズお爺様が目を剥く。

やっぱりポイントはここか。

工事を専門としている工兵の人たちなら、もっと深く理解しているのだろうけど、魔法技術が発達していて科学技術が遅れ気味な世界の、技術的ボーダーラインを初めて明確に目にした。

滑車の構造や使い方を知っていても、数式的に確立されたものでは無かったのだろうね。

「フィオレよ。馬の体重がどれほど有るかは知っているのだな?」

「・・・存じています。それを可能にするのが、ここの滑車の数です。この模型では小さく作りましたので滑車を少なくしていますが、実物では櫓の天井とカゴの天井にそれぞれ滑車を10個ずつ、それを2ヶ所で、合計40個の滑車を取り付けるつもりです」

唐突にインフレーションを起こした滑車の数を提示されて、みんなが目を丸くする。

「40個もか」

「それだけで、二人で動かせるようになるものなのか?」

「・・・水平を維持しないと先ほどのように動作不良を起こしますから、2人が息を合わせる必要は有りますが、1人あたりの綱を引く重さは50キログラムほどですね」

計算上の具体的で現実的な数値を示されて、唸り声が上がる。

「それは軽いな」

「巻き上げ機を使っても、数倍は人数が要るものだぞ」

「・・・運用上の安全性を考えて、崖下で馬をカゴに乗せる者と、崖上で馬をカゴから下ろす者を付けても、合計4人で稼働させられますね」

お父様もお爺様たちも思案顔になったことから、驚きよりも運用面に思考がシフトしたことが感じ取れる。

「同じ機構を使えば、城門の開閉も人数を少なく出来そうだな」

「・・・人数は減らせるとは思いますが、巻き上げの時間は余計に掛かるかも知れません。その辺りは慎重に調整していただければ」

あー。なるほど。

早速、応用してきたね。

城門はすでに滑車を使っている巻き上げ機だから改造するだけで済みそうだし、イケるんじゃないかな。

ただの筋肉ダルマではなく賢い人たちだから、用途と機構を理解すれば思考は広がるだろうね。

こういった思考の自由さに、経験豊富な為政者なんだなあ、と感心させられる。

「採掘場の崖上の門だけでも導入できよう。改善の要望が出ていたであろう? 防御力を落とさず開閉の労力を減らせるなら導入する価値は有る」

「面白い。早速、取り掛からせるとしよう」

「・・・ありがとうございます!」

ヨシ。プレゼン成功。これで建設許可は取り終えた。