作品タイトル不明
下準備 ⑩
「兵ではなく、難民に、そこまでの効果があるものか?」
「領民と難民では心の裡が違おう? 何とも言えぬな」
言わんとすることは理解できなくも無いけど、私自身が「卑下するな」と言われたばかりだからね。
とはいえ、私の感覚がズレてる可能性も否めないから、ちょっと、その辺の村人感覚の意見も訊いておくかな?
「・・・ディディエさん。ダーナさん。お爺様たちが揃っているウォーレス領にカリーク公王国が攻めてくると聞いて、怖いと思いますか?」
「いいえ。フィオレ様もいらっしゃるのに、有り得ません」
「フィオレ様に守っていただけることに至福を覚えることが有っても、恐れるなど、とんでもございません」
珍しく迷いが感じられないキッパリとした口調で答えが返ってきたな。
「・・・んん?」
「「はい?」」
私が傾げた首の角度と同じ角度で二人も首を傾げる。
何で私?
この二人が一番、一般人の感覚を持っていると思って訊いたけど、訊く相手を間違えたかな。
二人と私を見比べたお父様が苦笑する。
そう言えば、二人も半ば難民のようなものだったね。
「いくらかの効果は見込めそうだな」
「新年の祈祷には、どのみち顔を出すのだから、やってみるのが良かろう」
「敵を恐れて騒ぐようなら、”蒼焔”を見せつけてやれば大人しくなるだろう」
「・・・あっ、ハイ」
お父様たちの視線を一身に受け止めて真摯な態度で承諾を返す。
パニックを起こした難民に、「ガタガタ騒ぐんじゃねえ、大人しくしろ! 抵抗する奴が居たら、連帯責任で全員アフロヘアーにすんぞ!」って、大爆発する危険物を突き付けて優しく説得するんですね? 分かります。
群衆を大人しくさせる方法なんて私は他に持っていないから、使えと言われなくても暴徒化する前にブッ放しただろうけど。
慰撫も示威も、「不安から目を逸らさせて暴発を抑える」という意味では、形は違えど、やってることは同じだと思うんだよね。
目を逸らさせるという意味では、相手の目の前でパンと手を叩く”猫騙し”だって同じだ。
驚かせることで思考を中断させたり意識を誘導したりする。
その”猫騙し"が私の場合、”蒼焔”だってだけ。
驚かせるものには、そういう効果が有る。
”蒼焔”で脅すのが常態化しそうだな。
あそこの家の娘さん爆弾チラ付かせてきてアブナイわよねえ、だとか、ご近所の奥様方の井戸端会議でヘンな噂が立ってもアスクレーくんが嫁に貰ってくれるんだから問題ないという、一族総意の判断なのだろうか。
帰ってきたら逃がさないようにしないとな。
知識欲で危険な魔獣を見に実家へ帰るマニアックなアスクレーくんのことだから、魔法道具研究を手伝わせるとか寄せ餌を使えば引っ掛かるんじゃないだろうか。
うん。イケそう。
脳内会議で方針が可決された頃には、みんなが食事を終えている。
そうなると、期待が籠もった視線をセリーナお婆様が向けてくる理由はアレのことになる。
「では、フィオレ。あれの説明を聞きましょうか」
「・・・はい。アレ、動かすことが出来るのですが、触ってみますか?」
「ヨシ。行こう」
みんなして席を立ち、ぞろぞろとテーブルの末席へ向かう。
プレゼン開始だ。
「それで、これは何だ?」
「採掘場に作るもの、と言っておったか」
「・・・はい。馬用の昇降機です。10分の1ほどの大きさで模型を作ってみました」
何も聞いていなかったらしいお爺様たちが目を丸くする。
ハロルドお父様もお母様から詳しくは聞いていなかったようで、興味深そうにしている。
「馬用の?」
「これは櫓か?」
「・・・はい。崖上と崖下で上昇下降させる運搬機なので、略して昇降機ですね」
用途を聞いて、みんなしてモックアップを覗き込む。
「単に吊り上げるわけでは無いのか?」
「・・・馬を吊り下げると馬の体に負担が掛かりますよね?」
四つ足動物の弱点は総じて内臓が詰まったお腹だからね。
前脚と後ろ脚を背骨が橋渡しして、背骨が内臓を吊り下げる体の構造になっている。
体の形状として、四つ足の動物を吊り上げようとすればお腹の下に網か布を回して吊り上げることになるのだけど、500キログラムもある体重を弱点で有るお腹に集中させれば負担にならないわけが無い。
下手をすると腸捻転のような内臓疾患を引き起こして、死亡させてしまう恐れが有るんだよ。
平均体重で100キログラムも無い人間だって、肋骨や骨盤で守られていない腹部に全体重が掛かる格好で吊り上げられれば苦しくなるものだ。