作品タイトル不明
下準備 ⑧
「お前も他人事では無いのだぞ?」
「そうだ。フィオレとの接触を試みる書簡も増えてきている」
「・・・アスクレーお兄様がいる私もですか?」
は? どういうこと?
意味が分かんないんだけど。
首を傾げる私を見るお爺様たちが難しい顔になる。
「お前の価値が、それだけ高くなったということだ」
「アスクレーを何とかすれば、などと考える輩が現れても不思議では無くなってきたな」
「・・・うええ・・・」
自分でも分かるぐらいに、私の顔が嫌そうになる。
そこまでするの?
私が争奪戦に巻き込まれないためのアスクレーくんも、アスクレーくんそのものが居なくなれば振り出しに戻せるって?
ふざけんなバカヤロウ。
私だってアスクレーくん防衛戦に全力で参加するし、アスクレーくんの身に何かが起こったとしても、そこへノコノコと、「代わりは要らんかね?」などと売り込みに来るような馬鹿が居れば、そんな奴こそ私が排除してくれる。
湧き上がったヘイトを高レートで闘魂に変換していると、今、気付いたらしいハロルドお父様の目がモックアップに向いていた。
「それで、何だ? あれは」
「採掘場に建てるものの見本だそうよ」
「ほう。そうなのか?」
ハロルドお父様の問う目線に頷いて応える。
お母様から伝達されていたようで、すぐに理解へと至ったようだ。
大人たちを悩ませているルナリア問題から話題が移ったことで、シェリアお婆様が場を仕切り直す。
「詳しい説明はお昼の後に聞かせて貰いましょう」
「そうだな」
お婆様に促されて全員が席に着き、情報交換をしながら昼食をいただく。
晩餐時にもしていることだけど、今のウォーレス領は色々なことが同時進行していて刻々と状況が変化している。
社内メールやタスク管理表でタイムリーに情報共有できるわけじゃないから、雑談の形での近況報告と意思疎通はとても重要なんだよ。
誰もが携帯端末を持っていた日本のように、リアルタイムでコミュニケーションを取ることができないから、どこで何が起こっているかを把握することが、とても難しい。
情報が伝わったときには全てが終わった後だった、なんてことが当たり前に起こり得るんだから、限られた情報の中からの推測と予測、先手を打つための予防的行動の重要さは日本に居た頃の比じゃない。
読み違えて対策が甘くなるだけで簡単に人の命が失われかねないのだから、領民を守る立場の責任は重大だ。
現に情報面や補佐的な諸々に優れたミセラさんたちの仕事に、私はものすごく助けられているし、ロス家の人たちと円満な関係を築けている現状は、他に代えがたい優位点だと確信を持っている。
もちろん、ピーシーズだって頑張ってくれているし、どんな無茶にも付き合ってくれるみんなにも心から感謝してる。
でもやはり、沢山の人たちの協力を得られていることが分かっていても、情報の遅さにはストレスを覚えてしまうんだよ。
本当に、どうにかならないものかと、ついつい溜息が漏れてしまう。
「フィオレ。聞いていますか?」
「・・・あ。ハイ。もちろんです」
シェリアお婆様の目が私を捉えている。
あわわ。ヤバいヤバい。
半分以上、トリップしてたよ。
確か、西部地域からの流出民の受け入れ手順の話をされていたはず。
「西部地域経由の情報となれば、カリークの業突く張りどもの動きは、早晩、民の耳にも入ろう。戦災に遭ったとも言える西部地域の流出民が刺激されて、どんな反応を示すかが読み切れぬ」
「それを言えば、正しく戦災から逃れてきたエクラーダからの流出民は、もっとでしょう」
難しい表情のマルキオお爺様に、これまた難しい表情のセリーナお婆様がツッコミを入れている。
なるほど。私にも思いっきり関係の有る話だった。
要約すると、戦災から逃れてきた難民にカリーク公王国挙兵の情報が伝わるだろうから、どう抑え込むかという話題だ。
難民流入の元凶とも言える私が話半分にしか聞いていなければ、シェリアお婆様が気分を害するのも無理はないね。
西部地域からの移民も私が引き込んだのだから、爪先から頭の天辺までドップリと関係者だ。
咀嚼したパンを嚥下したハロルドお父様が難しい顔で口を開く。
「監視の兵を貼り付けておくしか無いのではないか? 後々の統制を考えれば武力行使はしたく無いが、もしもの際は力尽くで抑え込むしか有るまい」
「しかしなあ。いくら非戦闘員とはいえ、9万を抑え込むには兵を取られすぎよう」
ハインズお爺様が渋るのも当然だろうね。
10分の1と仮定しても、戦時に監視・鎮圧部隊で1万人弱もの兵力を割くのは、戦局に影響しなくても負担が大きいことには変わりないだろう。
うーむ・・・。