作品タイトル不明
下準備 ⑦
製作時間は3時間ちょっと掛かったかな。
ついでだから、モックアップを乗せて持ち運ぶ用の板を、土を固めて作ってしまう。
ちょうどお昼前に仕上がったから、食堂でお婆様たちに説明するか。
「そろそろお昼ですから、食堂へ参りましょうか」
「・・・これ、壊さないように食堂へ運んで欲しいんだけど、イケる?」
争うようにバッと手を挙げたのはディディエさんとダーナさんの二人だ。
「「お任せください!!」」
「・・・お。おぅ。お願いね」
午後は慰霊碑建設の下準備をするかなあ。
採掘場の10倍サイズぐらい有れば良いかな?
台座が一辺25メートルの正四角柱になるから、直角二等辺三角形の三角比で1対1対√2だっけ。
√2は1.414だったかな。
25メートルの1.414倍だと、え~っと・・・、35.35メートルか。
この直角二等辺三角形の底辺35.35メートルが、一辺25メートルの正方形を描く際の対角線となる。
長さ25メートルのロープを2本と35.35メートルのロープを1本作っておけば、地面にほぼ正確な正方形を描けるよね。
あくまで見目美しく仕上げるための目安として地面に建築面積を描くつもりなんだけど、セーフだと信じたい。
高さは目測と美的感覚で決めることになるけど、何とかなるだろう。
計画上は全高50メートルの巨大モニュメントだ。
かつて地球で世界一の大きさだった世界平和大観音像の、地上100メートルと較べれば半分の大きさだし、王城の見張り塔とは較べるべくも無いほど小さいけど、南部地域ではダントツの高層建築物になるはず。
高さ15メートルの城壁と較べても3倍以上の高さになるのだから、お婆様たちも納得してくれるだろう。
廊下を歩きながら脳内計画をまとめていると食堂に着いた。
私の後に続いてディディエさんたちが入室してくると、目敏くモックアップに目を付けたセリーナお婆様がロックオンしている。
「あら。それは何なのかしら」
「・・・採掘場に建てる予定の昇降機の構造を10分の1の大きさで作ってみました」
「随分と手の込んだことをするのね」
目を丸くするお婆様たちの目は、ディディエさんたちが食卓の末席にそーっと据えるモックアップを追い続けている。
「・・・目で見ていただいた方が、直感的にご理解いただきやすいかと考えまして」
「面白いことを考えるわね」
猫のように目を細めてセリーナお婆様が頷く。
こういう五感に訴える形のプレゼン手法はハインズお爺様が好むんじゃないかと思っていたけど、セリーナお婆様もお気に召したっぽい?
「土術式もかなり上達したようですね。でも、先にお昼をいただいてからにしましょうか」
「・・・はい。集中したのでお腹がペコペコです」
シェリアお婆様からもお褒めの言葉をいただいてホクホクしていると、お爺様たちとお疲れ顔のハロルド様が連れ立って入室してくる。
そう言えば、お爺様たちもお婆様たちも呼び方を変えたのに、ハロルド様だけ変えないわけには行かないんだよね。
ヨーシ、気合いを入れろ!
うおおおっ! 何だか顔が熱くなってきたように思うけど、そんなもの踏み倒して乗り越えろ!
スー〇ーエクラーダ人の血よ、目覚めるが良い!
「おう。もう揃っておったか」
「・・・あ、ハイ。お疲れのご様子ですね? は、ハロルドお父様」
「お? う、うむ。留守中の現状把握から始めねばならんというのに、ルナリアにちょっかいを出そうとする輩が多くてな」
呼び方が変わったことに、すぐに気付いて、一瞬、驚いた表情を見せたハロルド様は、優しく表情を緩めた後、苦笑に変えて首を振った。
驚きはしたのだろうけど、そのまま私を受け入れてくれたことが嬉しい。
私にとって、初めての「父」という存在だよ。
正直、めっちゃ照れくさい。
照れくさいけど、ハロルド様が初めての「お父様」であることが、すごく嬉しい。
お母様が私にとって理想の母親像だったように、ハロルドお父様が私にとって理想の父親像だったことに、今さらながらに気付く。
それよりも、困ったのは、すでに始まっているらしいルナリア争奪戦だ。
まだ出征の疲労が抜けきっていないのに政争に巻き込もうとするなんて、ハロルドお父様が過労死したらどうしてくれる。
何か緩和策は無いものかと考え始めながらも、先ずは労うことを優先する。
「・・・それは・・・。お疲れさまです」
ルナリアも予約済みにしてしまえば早いのだろうけど、などと考えていたら、ハロルドお父様だけでなく、お爺様たちの視線も私へと向いていた。