作品タイトル不明
下準備 ④
「それとな。別の経路でエクラーダからの流出民も、ヘアンズ領まで来ておるそうだ」
「・・・おおっ」
ブルータス!?
そっちも本当に来たのか!
ん? と、そこで首を傾げる。
「・・・ヘアンズ領と言うと・・・」
どこだっけ?
聞き覚えが有ると言えば有るんだけど、領地名だけを聞いても地理関係がパッと頭に浮かばないな。
「ナーガ川沿岸の領地だな」
「・・・あっ。ウォ-レス領の西隣にある南部領地でしたか」
確か、ミリア叔母様たちがお塩を売って回った先の一つだっけ。
地理的には旧エクラーダ王国から真っ直ぐ東進して小国連合諸国を抜けて、南西部地域の”融和派”領地をさらに東へ突き抜ければ、南部地域の”保守派"領地だけを通ってウォーレス領の西側へ入れる。
地図上では最短ルートだけど、ウォーレス領内唯一の鉄鉱山が有る山地地帯を掠めるルートだから、地勢にアップダウンが有ったはず。
パッと見は近いけど、結構、徒歩では厳しいルートだよね。
「そうだ。西部からは、おおよそ4万人。エクラーダからは、おおよそ5万人の流入が見込まれるそうだ」
ほうほう。4万に5万?
輜重部隊が帰り荷として運んでくれた到着済み流出民も足して、都合10万人弱か。
ウォーレス領だけに押し付けるには、かなり多いな。
新領地に半分欲しいけど、受け入れ態勢の構築ではウォーレス領が二歩も三歩も進んでいる。
ていうか、今の新領地には流入民に与えられる仕事も食料も寝床も無くて、未開拓の土地しか提供できるものがない。
「よって、住居建設事業も引き続き進めねばならんし、農地不足の懸念も出て来たからな。近日中に城壁の移動を行うことが決まった」
おおっ。お爺様たちは現実的な受け入れプランをしっかりと見据えて進めてくれていた。
新領地が土地を提供して、ウォーレス領が受け入れ事業を継続すれば、10万人でも何とかこなせそう。
採掘場周辺の森がダンジョンだと判明すれば、お肉はほぼ永遠に供給できる。
早々に城壁を動かして農地開墾に取り掛かれば、春の植え付け面積を増やせるって食料生産計画かな?
流通が生まれておカネが動けば新たな雇用を生み出せて、結果として住居需要も満たせる。
住居建設から引き続き養成施設建設まで雇用を繋げれば、さらなる農地開拓まで繋げる時間が稼げそうだ。
「それ故、午後の鎮魂の碑建設は儂らも視察に行く。しっかりと遣り遂げて見せよ」
「・・・もしや、城壁の移動に私も参加して良いのですか?」
私はメッチャ参加するつもりだったけど、希望通り作業に混ぜて貰えるかと言えば、確定的には明言されていなかったからね。
城壁移設は領地開拓計画の第一歩になるのだから、もちろん、全面的に協力するよ。
「今日の結果次第でお前にも土術式で働いて貰うことになろう。期待しておるぞ」
「・・・はいっ!!」
ヨーシ! お爺様たちも見に来てくれるんだから、気合い入れて行くよ!
大規模術式が使えることを示して認めて貰うんだ!
こうしちゃ居られない。
忙しくなりそうだから、お母様たちが採掘場から帰ってくるまでに馬用リフトの図面を描き上げておかないと!
「・・・私、ちょっと図面を描いてきます!」
「む? 図面?」
「フレイアが何かそんなことを言っていたそうだが」
片眉を僅かに上げて怪訝な顔をしたハインズお爺様が、マルキオお爺様の補足情報で何かを思い出したらしく小さく頷いた。
大勢に影響するようなものでは無いから聞き流していたのか、丸投げで忘れていたのか、どちらにしても重視していなかったのだろうことは想像が付いた。
お爺様たちも本日のプレゼン対象だな。
今日もお爺様たちは領主執務室で缶詰めになる予定だったはずだ。
「・・・採掘場の新設備です! お婆様たちに提出することになっていますので、後ほどご確認いただければ!」
「お、おう」
「・・・それでは、失礼いたします!」
ガバッとお爺様たちにお辞儀して、私は領主館へと急いで戻る。
剣術の練習? 細けえこたあ良いんだよ。
剣術でなくても、魔力の手を伸ばしても良いと、お爺様たちから免罪符は貰ったし。
ルナリアの部屋で―――、いや。たまには自分の部屋を使うか。
机は私の部屋の方が大きいし。