作品タイトル不明
下準備 ③
「・・・それって、問題なのでは」
「なぜだ。魔法術師は魔力量が多い方が良いものなのであろう?」
フィジカル担当のハインズお爺様が、一般論的な魔法使いの評価基準を口にする。
「制御できるのならば、だな。そればかりはお前自身が捻伏せて飼い慣らすしかあるまい」
「・・・ですよねー。やり過ぎないように気を付けます」
私が意識して難しくなった魔力制御をがんばるしか無いと。
前回、お母様にも同じことを言われたからね。
やっと元通りに魔法を扱えるように慣れてきたのに、また振り出しに戻ったなんて、ぐんにょりするんだけど。
「セリーナとシェリアも魔力量が増えたと言っておったな」
「ふむ。儂らも行くべきか」
首を傾げつつ、ハインズお爺様がマルキオお爺様と視線で意志を問い合う。
ただでさえ忙しいお二人が、わざわざ採掘場へ足を運ぶ必要性を感じている理由なんて一つしか無い。
懸念事項の現状確認がしたいのだろうと予想する。
「森の迷宮化の件だな」
「・・・あくまで推論で、まだ確証の有るものでは無いのですが」
ほらね。やっぱり。
もう少し確信が深まってから報告すれば良かったかな。
私がタスクを積み上げるのは私の自業自得だけど、お爺様たちの仕事を増やしたくて報告したわけでは無いのだから。
「いいや。結果をみれば以前から思い当たる節は有ったのだ。思いもよらぬことでは有ったがな」
「狩り尽くしたはずのバンダースナッチが湧き続けるなら、推論の枠には収まらなくなるであろう」
「・・・事実で有れば、危険な状況、ですよね?」
必要な情報だったと言ってくれているのは分かるけど、気付いていなかった笑えない状況が明らかになる以上、放置は出来ないだろう。
人員を増強するなり防衛設備を強化するなり、何らかの手当が必要になるはずだ。
みんなの負担を増やしてしまうことを心苦しく感じていたら、私の思いを読み取ったようにお爺様たちがニヤリと笑う。
「だが、悪いことばかりでは無いぞ」
「・・・そうなのですか?」
危険な魔獣の徘徊が増える利点?
カリーク公王国の潜入侵攻部隊に対する防衛面が楽になるとか、そういうことだろうか。
あの連中なら、いくらポリポリと丸囓りしてくれても構わないけど。
一度有ったことは二度でも三度でも再現できるってことだから、崖上ルートも警戒レベルを引き上げざるを得ないんだよね。
ところが、お爺様たちの指摘は私のツボをピンポイントで刺激するものだった。
「何せ、火属性の魔石は非常に価値が高い」
「・・・ハッ! 儲かりますね!」
思い出した!
火属性の魔石は動力源に使う魔法道具の数が多いから、需要が高いと教えて貰ってたじゃん!
王国が面した魔の森で火属性の魔石が採れるのは東部地域から北部地域で、南部地域のウォーレス領では火属性の魔石が採れなかったんだよ。
その産地分布が変わるってことか。
私の気付きに、お爺様たちが悪ガキっぽく楽しげに笑う。
「そういうことだ。安全に狩れる手法が確立できたなら、継続して湧いくれても構わぬ」
「これから、まだまだカネが入り用になりそうなのでな。魔獣は資源だと儂らも考え方を改めたのだ」
「・・・入り用、ですか?」
頼もしいことだけど、入り用というのは、具体的に次の戦争のスケジュールが見えたということだろうか?
領主の立場として戦場に立つ覚悟を決めている私の警戒度が一気に引き上がる。
ところが、お爺様たちからもたらされた情報は、私が危惧したものでは無かった。
「うむ。ワールターの配下からの報告でな。西部からの流出民が、そろそろ本格的に到着しそうなのだ」
「・・・えっ!! 本当に来たのですか!?」
マジで!? 半ば諦めてたのに朗報だよ!
さすが、ロス家の諜報網!
またぞろカリークが攻めてくるのが確定になったのかと思ったら、そうじゃなかった!
「既に先頭はマンメルソン領に入っておるらしい。早ければ数日内には到着し始めよう」
「・・・おおおお~」
マンメルソン領って、ポドックさんの領地の隣の隣だよね?
ウォーレス領も西側の端っこで領境を接しているお隣さんだけど、王都からの帰還では通らなかった、ルナリアが苦手にしている御令嬢のご実家だったはず。
つまり、西部地域から自力で脱出してきた人たちは、ウォーレス領の目前まで来ているということだ。