作品タイトル不明
下準備 ②
「罠もだが、まさかシーヴァとビネガーで無力化できるとはな。今後のバンダースナッチによる被害を大きく減らせるであろうよ」
「・・・あれは、万が一に備えて用意して貰ったもので、犬が嫌うと聞いたことが有ったので試してみただけです。本当に効いてくれたようで幸いでした」
お婆様に期待されて嬉しかったハイテンションで悪ノリした結果が上手くハマっただけです、とは言い辛いなあ。
保険的なものだったとはいえ効いたのは幸運だったんだよ。
「運を引き寄せるのも実力の内だ。勝たせてくれる将を兵は慕うのだから、己を卑下するものではない」
「その通りだ」
私の心中を知ってか知らずか、ズバリと言い当てられて反論を諦める。
「・・・分かりました。お褒めいただき、ありがとうございます」
「「うむ」」
私が素直に受け入れたことで、ハインズお爺様もマルキオお爺様も満足そうに頷く。
「それで、お前たちは剣術の型稽古か?」
「・・・はい。今回、想像以上の速度で接近されましたので、接近戦にも対応すべく剣術の必要性を強く感じまして。みんなにも私の我が儘に付き合って貰っていました」
今まで魔法ばかりに取り組んで剣術も真面目に取り組んでいなかったし、マルキオお爺様に槍術の基礎が身に付いたら直々に教えていただける約束もしていたのに、それも放置していたとは言い出しにくい。
いや。私が言い出さなくても放置していたのは一目瞭然で周知の事実だっただろう。
過去の手抜きを悔い改めて殊勝に言った私にお爺様たちが顔を見合わせる。
「ううむ。剣に頼らずとも、お前は得意の魔法術式で襲い来る魔獣を捻り潰したのであろう? 今さら付け焼き刃の剣術を学ぶよりも、得意を伸ばすのも手では無いか?」
「そうだな。ルナリアとジアンにも教えたのであろう? 己の感覚のみに頼るのではなく他者に伝授できるものともなれば、それはもう確立された技術と言って良いものだ」
え? え? 何? どういうこと?
もしや、私には剣術の才能が無さそうだから諦めて魔力の手で張り倒せとか、そういうこと?
大抵の敵なら張り倒せてしまいそうなのが、また微妙なんだけど、まあ、剣術の型でさえ 屁(へ) っ 放(ぴ) り 腰(ごし) の私には才能が無いんじゃないかと、自分でも思い始めてたところだったんだけどさ。
ナイフ程度の刃物の扱いは私も慣れては居るけど、剣ほどの長さになると刃物を振り回すのなんて慣れているわけが無い。
獲物のトドメだと武器を握っても平気だし、森で風ジェットカッターを振り回して敵兵と戦ったときにはイケそうだったのに、訓練で武器を握ると、どうにもしっくり来ないんだよね。
今は木剣を振り回しているけど、これが真剣だったら自分の足を斬り付けそうに思うんだよ。
実際、日本でも、真剣を扱う居合い道場なんかでは、自分の足を斬る付ける事故は多いって聞いたことが有るし。
うーん。
剣術はパスします! なんて言ったらお母様に何て言われるか分かんないし、日本的玉虫色回答で取りあえずこの場は棚上げしておくべきか。
「・・・そ、そうなのでしょうか。考えてみます」
ところが、お爺様たちの攻勢は終わらなかった。
二人して仲良く「ん?」と首を傾げたお爺様たちが、諭すような口調で言葉を繋ぐ。
「儂らはな、あのジアンが立ち直ってくれたことも嬉しいのだ。よくやってくれた」
「あれもまた優秀で希有な男だ。お前やルナリアの大きな力になることだろう」
おや? これはジアンさん復活のことも有って、お爺様たちの中で私の魔力の手の評価が爆上がりしていて、日本の玉虫が敗北したってことかな?
だとすると、玉虫さんの敗因は選手の能力ではなく、戦況を読み切れなかった監督の選手投入判断ミスになるだろう。
済まなかった玉虫さん。
だが、キミはクビだ。
監督権限で甲虫類にパワハラをぶちかました私は戦術を変えて話題の終結を図る。
「・・・ルナリアとジアンさんの努力と理解力の賜ですよ? 私も力は貸しましたが、先ずは二人を褒めてあげていただければ」
「そうだな」
あら。アッサリ。
お爺様たちは目を細めて頷いてくれた。
魔力の手の有用性で評価しているだけでなく、それを習得するに至った本人たちの努力と才能も、しっかり認めてくれているんだね。
お爺様たちは物事の表面に見えるものだけで判断するような、浅薄な人たちではないのだから当然か。
実際、それまで概念がなかったものを理解して模倣するのって、それ相応の才能が必要だと思うしね。
「そう言えば、今日は森の入口に鎮魂の碑を建てると聞いたが、大丈夫なのか?」
「・・・実は、昨日の魔力酔い以降、また魔力が不安定になっているようで、力が有り余っている感覚が有って落ち着かないのです」
「ほう。まだ増えるのか」
心配顔のマルキオお爺様に向けて第2回元気アピールを開催すると、王都での出来事や帰路での現象を報告したばかりだからか、ハインズお爺様は「魔力の不安定化」を「体内保有魔力の増量」と受け止めた様子だ。
サンプル数も検証も不十分な現状では「不明」としか言いようがないんだけど。
「・・・増えたのでしょうか?」
「増えておるだろうな。今、こうして話していても魔力を感じ取れるほどだ」
えっ? そうなんだ。
私が提起した不確実性の懸念を、魔力感知にも長けていらっしゃるマルキオお爺様が一刀両断する。
でも、ちょっと待って。
何もしていなくても私の体から魔力がダダ漏れって状況は、こないだ頑張って感覚を掴み直したばかりなのに、また魔力制御が出来ていないって意味になるんじゃ?