作品タイトル不明
下準備 ①
普段とは朝食と訓練の順序が逆になったけど、私はと言えばミセラさんたちと訓練場で剣術の型を繰り返している。
型の稽古を始める前のジョギングでは、ぞろぞろと起き出してきた領軍の兵士さんたちや騎士様たちと一緒に、個人レコードの10周完走を達成したよ。
パラパラ? そんなもんは知らん!!
「フィオレ!」
おや。訓練場の端まで届きそうな大音声に木剣を振る手を止めれば、ハインズ様とお爺様が連れ立って歩いてきた。
鎧下のさらに下に着けるための運動着に筋肉を押し込んだ偉丈夫2人が、大股でノシノシと歩み寄ってくる。
私と並んで木剣を振っていたディディエさんたちが、ババッと私の後ろに隠れ―――、控える。指導教官を務めてくれていたミセラさんたちも、ススッと脇に退いて控える。
訓練用の鉄剣を手にしているところを見ると、お爺様たちはこの時間帯に体を動かしに来ているんだね。
朝7時に軽く運動して、朝8時に朝食を摂って、朝9時までには執務室で仕事を始めるスケジュール感だろうか。
一通りの軍事行動が終わって後処理も有るのだろうけど、ルナリアに群がる有象無象をシャットアウトする仕事が増えて、いつまで経っても仕事が片付かないのかも。
それよりも、この場をどうしよっかな。
セリーナお婆様を「お婆様」と呼ぶことになった以上、ハインズ様も「お爺様」と呼ぶようにするべきだよね?
お婆様たちと話して1時間以上が経過しているのだから、ハインズ様はセリーナお婆様から自慢された後の可能性が有る。
ええい! ちょっと怖いけど、女は度胸だ!
「・・・おはようございます。ハインズお爺様、マルキオお爺様」
「―――ッ!!」
ミセラさんたちを後ろに従えて挨拶すると、グワッと刮目したハインズ様がフリーズして、固まったハインズ様を横目に見たお爺様が苦笑する。
「うむ。おはよう。体調はどうだ?」
「・・・すっかり元気、というか、元気すぎて困るほど元気です」
「そうか」
元気アピールに表情を緩めたお爺様に、わしわしと頭を撫でられた。
「ふぃ、フィオレ」
「・・・はい」
フリーズから復帰したハインズ様が何やら挙動不審になっている。
「も、もう一度呼んでくれんか」
「・・・へっ?」
この流れ。マルキオお爺様と初めて合った日にも似たような遣り取りが有ったような?
あの時は「お爺様」と呼ぶように要求されて、要求通りに呼んであげると喜んでたよね。
「・・・ハインズお爺様」
「おお、うむ!」
厳ついハインズ様がパッと表情を明るくする姿は、普段の強面から想像しにくいよね。
お爺様もだけど、ただ物理的に強いだけじゃなく正義感と責任感が強く、義理堅くて懐も深いし、先見性が有って度胸も有る。
意外と子供好きで優しいし、陰日向無く苦手な書類仕事もコツコツと頑張ってくれる。
為政者としても先達としても家族としても理想的なのに、見た目がちょっと怖いからって損してる。
私を家族として受け入れてくれたこのお二人に、私はとても感謝しているし、そんなお二人が大好きだ。
そのお二人が再び代わる代わるわしわしと撫でてくれる。
「フィオレよ。お前が昨日狩った見事なバンダースナッチを加工場で見てきたぞ」
「大したものよ。セリーナたちも守ってくれたそうだな」
「・・・あ~、いえ。予想外の攻撃に翻弄されまして、かなり危ないところでした」
お爺様たちに褒められるのは嬉しいけど、何とも歯切れが悪くなる。
偉そうに教えるとか見守るとか言って余裕こいた上に、魔獣の方が一枚上手で、慌ててリカバリーしたものの本当に間一髪だったし、自分の至らなさを棚に上げて逆ギレで怒りに任せて惨殺しただけで、 私(わたし) 的にはアレを褒められると微妙なんだよなあ。
「何を言う。フレイアでさえ意表を付かれたと悔しがっておったわ」
「その状況で討伐隊の誰にも傷一つ負わせることなく、バンダースナッチの群れを平らげて見せたのだ。誇るが良い」
「うむ。あれほどの個体を単身で討伐できる者など、そうそう居らぬのだ。武門の誉れよ」
うあー。ベタ褒めされてお尻の辺りムズムズがする。
結果だけ見ればご立派に見えるかも知れないけど穴だらけだったんだよなあ。
それでもお褒めに預かっている項目のひとつ一つを見れば、「それは違う」と否定する材料も無いわけで。