軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

森の仮説 ⑫

セリーナお婆様は昨日でバンダースナッチ問題は解決したと考えていたっぽいね。

お母様は、今、答えた通り、事後経過観察期間の認識だったか。

私はお二人とは違う認識を持っているから齟齬を埋めておいた方が良さそうだけど、未確定の見解を口に出しても大丈夫だろうか?

「新たな個体だと?」

「昨日、何かの痕跡を発見していたということかしら」

ボス犬レベルの個体がゴロゴロ居るとまでは確信を持てないんだけど、バンダースナッチ南下問題はウォーレス領全体にとっての重大事だけに、お母様もセリーナお婆様も聞き流すつもりは無さそうだ。

困ったな。

どこまで話して良いんだろうか。

「・・・いいえ。そういうことでは無く」

「何だ? ハッキリ言え」

口ごもる私にツッコミが入る。

セリーナお婆様とシェリアお婆様も頷いている。

「・・・多分に憶測が入るけど良い?」

「構わん。被害者が出てからでは遅い」

だよね。その通りだ。

私の迷いで被害者が出たら、私もずっと悔やむことになるだろう。

誰かを失って悔やむよりも、何事も起こらず私の信用が低下する方がマシだ。

「・・・お母様たちは、シカの増殖―――、ううん。 シカが湧き続ける原因(・・・・・・・・・・) を、どう推測してる?」

「魔獣は魔力から生まれる、という仮説の実証では無いのか?」

度々、その話は出ていたし、可能性として魔力誕生説が私も有力だと考えている。

ただ、もう一歩踏み込んでみれば、また別の可能性が見えてくる。

目に見える確証が有るわけでもないし、荒唐無稽すぎてお母様たちも予想の埒外に有るんだろう。

だからこそ、敢えて指摘する。

「・・・もう一つ、湧き続ける原因が推測できると思うんだけど」

「もう一つ?」

お母様が首を傾げ、お母様そっくりな仕草で立てた指先を顎先に添えたシェリアお婆様が、目を伏せて思考する。

「湧き続ける・・・。迷宮の魔物、ですか」

うはぁ。さすが、王国随一の知識人と讃えられてきたシェリアお婆様だ。

キーワードひとつで私が何を疑っているかに辿り着いた。

「・・・はい」

「「はああ―――・・・」」

私が深く頷いて肯定すると、お母様とシェリアお婆様が特大の溜息を吐いた。

置いて行かれて不満そうなのはセリーナお婆様だ。

「どういうことなのかしら? 分かるように説明しなさい」

「採掘場周辺の森が迷宮化しているのではないか、と、コイツは言いたいんだ」

お母様から返された回答にセリーナお婆様が目を剥く。

「魔の森が迷宮化ですって?」

「有り得なくは無いでしょう。魔族領域の森が”迷宮化していた”との記述がある古い文献も現存しますからね」

視線を彷徨わせて記憶を探る仕草を見せたセリーナお婆様が、シェリアお婆様へと目を向ける。

「魔族領域・・・。勇者の手記ね?」

「ああ。いくら狩ってもキリが無かったそうだ」

へえ? 魔族領域ってことは一番強かった勇者さんの話だよね?

そんな記録を残してくれてるんだ。

頭痛を堪えるようにセリーナお婆様がこめかみを揉む。

「採掘場で増えているバイコーンの説明が付いてしまうのね」

「ええ。考えてもいませんでしたが、振り返ってみれば、状況は当て嵌まります」

セリーナお婆様にシェリアお婆様が答えて、全員の目が私へ向く。

「・・・確証は有りませんから、あくまで憶測に過ぎないのですが」

「これは、バイコーン観察の優先順位が上がったな」

衝撃を和らげようとフォローする私にお母様が苦笑して、セリーナお婆様が頭を抱える。

「はあああああ・・・。次から次へと・・・」

私が問題を起こしたわけじゃないよ?

私は建設中の防壁の内側にシカが湧いたのを、そのまま置いておかせただけだもん。

私はシカの生態観察ができるかもと放置させただけで、延々と増殖し続けるなんて考えてもみなかったし、状況を利用してシカ肉の安定供給化で資源を有効活用しただけだ。

「推測が確定情報に変わったところで現状は何も変わらん。何も分かっていないよりも、対策を打つことが出来るのだから僥倖だろうさ」

「前向きで良いことね」

「ま。バイコーンの観察は、バンダースナッチの状況が予想できてからで良かろうよ」

答えの出ないことでグズグズと議論しても時間の無駄ということで、結論は持ち越されて大慌ての朝食をお腹に詰め込み、お婆様たちと私とミセラさんたち以外は採掘場へと出勤して行った。

姿が見えないジアンさんは、用事が有るとかで昨日の内にピーシス領へ戻っていて、またすぐにレティアへ帰って来るらしい。