作品タイトル不明
森の仮説 ⑪
さてさて、頑張れファーレンガルド家! と応援すべき場面だろうけど、実際、どうなんだろうね?
猩猩(しょうじょう) の生態を私は知らないから、私の常識で何かを判断できるものでは無いのだけど、今後、私自身が対峙しなきゃならなくなる可能性を想定して、訊いておいた方が良いんだろうか。
「・・・そんなに面倒な魔獣なの?」
「知恵が回るんだ。一度見た陣形や連携攻撃には引っ掛からん」
「・・・うわ。最悪」
お母様が極めて面倒くさそうな表情で特徴を教えてくれる。
私の狩猟スタイルとは極めて相性が悪い魔獣じゃん。
そこまで知能が高いのなら、一度見たワナにも二度と掛かってくれないだろう。
お母様の説明を頷いて追認したお婆様の表情も極めて渋い。
「その上、残虐性が強くて、群れで人間を遊びでいたぶって殺すそうです」
「何それ! 許せないわね!」
卑怯者を嫌うルナリアとも相性は悪そうだ。
それが、その魔獣の性質なら、憤慨したところで意味は無いんだけどね。
所詮、言葉の通じないケモノに過ぎないんだから。
魔獣にも多少は賢く、人間の裏をかいて、嫌らしい攻め方をしてくる個体が居ることは、昨日のボス犬で私も学んだ。
そうなるとワナだけでは対処しきれないし、裏をかこうとする敵の裏をかく嵌め方を考えておく必要が出てくる。
いや。やっぱり一度見ただけで対処してくる敵にワナでは不利か。うーむ・・・。
「・・・森から出て来ることは?」
「氾濫でも起こらん限りは出てくることは無いな。だが、ショージョーが出る森へ踏み込める冒険者など数えるほどしか居らんし、軍では森の中での行動に慣れていない」
なるほど、なるほど。人材的な問題も大きいのか。
せめて対処方法や討伐方法に詳しい人が司令塔になって指示すれば、物量で対処できそうなものだけど、軍隊の―――、中でも誇り高い騎士様たちは、根無し草の無頼者と蔑む冒険者が指示しても動かないだろう。
猩猩の手強さは、そういった人間社会とのミスマッチも原因の一つになっているわけか。
「・・・本当にそれは厄介だね。そんなの、どうやって倒すの?」
「囲い込んで森ごと燃やせば良いじゃないか。まあ、私もショージョー討伐に駆り出された経験は無いから手探りになるがな」
「・・・なるほど。力技か」
さっすがお母様。
この上なく的確で、ミスマッチも吹き飛ばす明快な答えだった。
さらにお母様が見込んでいる不確定要素はセリーナお婆様が、あっさりと解決してしまう。
「討伐経験が有るドネルクかクローゼリス卿に教えを請えば良いでしょうに」
「それもそうだな。アイツら、いつ来るんだ?」
おっ。気になってた騎士団長さんの話だ。
「ハロルド宛に書状が届いていたと思うけど、年明け早々には来るでしょう。それまでにはドレスも仕上がると聞いているから、エゼリアとアンリカにも準備させておきなさいな」
「ああ。分かった」
へええええ。
盗賊狩りと新領地で3~4日の寄り道をしたとはいえ、もうアポイントの手紙が届いてるんだ?
熱烈アタックを仕掛けたバルトロイさんは兎も角、騎士団長さんも前のめりじゃん。
ニヨニヨしていて気付いた。
「・・・ん? 昨日、お母様たちがバンダースナッチ狩りに参加してたのって?」
「お前の狩猟技術は、北部や東部に行っても使えるだろう?」
「・・・そうだね! エゼリアさんにもアンリカさんにも、しっかり覚えておいて貰わないと!」
おおっ。エゼリアさんとアンリカさんも、しっかり前のめりだった。
嫁入り先で活かせるスキルアップのためも有ったなんて、教える私のモチベも爆上げだよ!
鼻息も荒く応えた私にお母様がジト目を飛ばしてくる。
「今日はダメだぞ」
「・・・そうだった―――ッ!!」
今日の私は出禁ペナルティじゃん!
頭を抱えた私にお母様がトドメを刺してきた。
「1日2日程度では大して状況は動かんだろう。諦めろ」
「・・・うう。ハイ」
ここまでハッキリと釘を刺されては、余程の緊急事態でもなければ決定は覆らないだろうし、抵抗するほどの緊急性は無くなったと私自身が考えている。
やっぱり今日は、馬用リフトの図面を片付けておくことにしよう。
お母様と私の会話の中に何らかの違和感を感じたのか、セリーナお婆様が首を傾げている。
「南下してきていたバンダースナッチの討伐は、終わったのでは無かったのかしら?」
「討ち漏らしが有る可能性も排除できん。暫くは警戒を続ける必要が有るんだ」
「・・・あっ。それ、新たな個体が現れる可能性も考慮して、油断しないように、みんなに伝えて欲しい」
お母様たちの視線が私へ集まる。