作品タイトル不明
森の仮説 ⑩
しかも、ルナリアは曲がったことと無責任なのが大嫌い。
着飾ることに興味が無くて、野営の不便さも質素な野戦食も苦にしない。
ルナリアに取り入りたい貴族のボンボンからすれば、ルナリアは難攻不落の要塞と化しているはず。
人の上に立つ者としての自覚が有って責任感の強いルナリアらしいと言えば、ルナリアらしい嗜好なのかも。
ウォーレス領は目の前に仇敵と睨み合っていて今後の発展も見込める領地だ。
ハインズ様とハロルド様とお母様の背中を見て育ったルナリアは、自身もまた領主として戦場に立つことを前提とした思考を持っているのは明らかだし、武力と知力だけでなく配偶者に人間性を求めるのは、ルナリアが戦場へ出ている留守中にも、実務的に領主代理を務められるだけの資質を配偶者に求めているのかも。
「分からんでは無いが、お前は跡継ぎを残す必要が有る。それを忘れるな」
「むっ!」
お前も子供を生めよ、と、ストレートに言われたルナリアが、バッと私を見る。
「・・・な、何?」
「フィオレよりも強くて賢い男なら結婚しても良いわよ!」
「・・・ええ?」
何で基準が私になるの?
ルナリアに求婚しに来た男性たちが私に挑みに来るわけ?
私は「ルナリアが欲しくば儂の屍を超えて行け!」とでも言えばエエんかのう? フォッフォッフォ。
私の出る幕も無くハインズ様とハロルド様が立ちはだかるのは間違いないんだから、そのパターンになればルナリアは間違いなく行き遅れることになるし、セリーナお婆様とシェリアお婆様とお母様の三人で、ハインズ様とハロルド様を抑え込むんだろうか。
お母様とセリーナお婆様が思案顔になる。
「ふむ?」
「性別を変える術式を、誰か開発してくれないものかしら」
ちょっ! なんでそうなるの!?
カレリーヌ様みたいなことを言うのは止めて欲しい。
ファンタジー的にそんな魔法が有り得そうだから洒落にならないよ!
さすがに性転換は受け入れ難いので、マニアックな個人的事情で実家へ帰ってしまっている婚約者くんを肉の盾に防御陣地構築を試みる。
「・・・わ、私にはアスクレーくんが居るので!」
「だったら仲良くしろ」
バッサリとやられた。
役に立たないな。ショタバリアー。
お母様に言われるのは釈然としないけど、ド正論ですね。
いや。お母様は、ひたすら一途にハロルド様の傍で不器用な好き好きオーラを出し続けていたわけだから、お母様なりにハロルド様と仲良くしようと頑張っていたのか?
これはいよいよ口先での反論が難しくなったな。
ヨシ。白旗だ。
「・・・ぜ、全力で前向きに取り組ませていただきます!」
「なに? わたしと結婚するのは嫌ってことかしら?」
「・・・そういう問題じゃないから!」
なんでそうなる!?
ルナリアが面倒くさい子になってる!
不満そうに言われても、どうしようもないじゃん!
いけない。こういう場合は背中を見せて逃げたり騒いで刺激したりせず、ジッと目を見据えて逸らさないまま、静かにゆっくりと安全圏まで後退して距離を取るんだっけ。
いつでも飛び掛かれる体勢で身構えるルナリアと相対して、いつでも防御できる体勢を保って私もジリジリと立ち位置を変える。
囮となる猫じゃらしを持っていない今、肉弾戦も止む無しだ。
猫じゃらしが有ったら有ったで、ルナリアよりもノーアが先に釣れて無効化されそうだし。
「「あうっ」」
黙って椅子から立ち上がったお母様に、ルナリアと二人で、ズビシッ、ズビシッと脳天にチョップを食らった。
ふざけ過ぎたか。
鼻息一つで場を締めたお母様がシェリアお婆様へと振り返る。
「そのアスクレーは、いつ戻ってくるんだ?」
「ショージョーなんて、そうそう人里まで出てくる魔獣では有りませんからね。ファーレンガルド家は、討伐までは出来なくとも追い払う考えだと聞いていますけど、いつ終わることやら」
肩を竦めたシェリアお婆様が首を振る。
そりゃそうだよね。
魔獣だって野生動物だって、人間の都合に合わせて現れるものではないのだから、マタギのように大自然に分け入って獲物を追跡するので無ければ、いつ現れるかなんて予想も付かないのが害獣ってものだ。
マタギって言うのは、北日本地域を中心に猟銃を背負ってクマ撃ちやシカ撃ちをしていた猟師さんたちのことだよ。
赤カブトは必ず儂が撃つ! ってアレ。
人の入っていない道無き山々を踏み越えて、狩猟犬をお供に猟銃一丁を背負って延々と500キロメートルも獲物を追い続けたとか。