作品タイトル不明
森の仮説 ⑦
安易な拡大解釈で人間を乗せて事故ったら目も当てられないからね。
ウォーレス家の人たちは理性的な判断をする人たちだから、想定される懸念事項を隠してはいけない。
デメリットや問題点を明らかにした上で、それを上回るメリットも示して有効な使い方を提案した方が理解を得られる。
「・・・人力でカゴを動かしますので、巻き上げ装置から手を放すとカゴが落下します。重量的には1人で動かせると思いますが、念のため2人で動かす形にして、1人が手を放しても落下しないようにするつもりです。それでも万全とは言い難いので、馬と荷物のみの運搬装置とお考えください」
「巻き上げ機から手を放せば、落ちるのが当然でしょうに」
城門の巻き上げ機の構造や原理を理解しているからこその感想だね。
王家の血が入った家系である公爵家のご令嬢といえば、状況と巡り合わせが一歩違えばお姫様だった人だろうに、社交一辺倒では無いところが流石だよ。
でも、理屈通りに運ぶばかりが世の中では無いことを、私だって知っている。
「・・・まあ、そうなのですが、慣れれば規定通りに扱わなかったり、手順を端折ろうとするのは人間の常ですから」
「それもそうね。図面が描けたら持ってきなさい」
ほぼほぼ、お許しは得られたかな?
セリーナ様なら図面を見て構造や原理を理解するのだろうし、メリットがデメリットを上回れば条件付きでもゴーサインは貰えるだろう。
セリーナ様も色々と忙しいのに時間を取ってくれるつもりなのだろうから、頭を下げる。
「・・・ありがとうございます。そうします」
「今なら工兵部隊に余裕が有るから、使わせるぞ」
お母様も導入を進める前提で後押ししてくれている。
「ハロルドには、貴女から話を通しておきなさいな」
「そうしよう」
採掘場は戦略物資を生産する軍事施設扱いだし、事実上の当主であるハロルド様の承認は必要だよね。
ルナリアと私の爵位承継は政治的な偽装に過ぎなくて実権は無いわけだし。
お母様たちがピンピンしている内は、私たちも爵位を承継したいなんて、これっぽっちも考えていない。
かと言って、馬用リフトのように許可が欲しい場面というものはあるわけで。
実際、何かの許可が欲しい場合に私たちはハロルド様に直談判する必要は無くて、お母様の許可を得る方が圧倒的に早い。
お母様が必要だと言えば、ハロルド様が拒絶する未来なんて想像もできないからね。
でもまあ、ハロルド様やお母様に実験が有るからと言って二人が独断で何かを強行することは無い。
必ずハインズお爺様やセリーナ様と相談して合意の元に決定がなされる。
これがウォーレス領における意志決定システムで、このシステムが有るからこそウォーレス領の結束は鋼よりも硬い一枚岩なのだ。
また進行中タスクが増えた私にお婆様が目を向けてきた。
「慰霊碑はどうするつもりなのですか?」
「・・・私は今すぐ作りに行っても構わないぐらいですが、どうすれば良いでしょう?」
魔力的にも力が有り余ってるから、ポドック領の大穴の同じ轍を踏まないように気を付けなきゃいけないぐらいだと思うよ。
むしろ、昨日の慰霊碑建設の感覚を忘れないうちに建てさせて欲しい。
「午後にしろ。早めに引き揚げてくるつもりだから、一人で勝手にするんじゃないぞ」
「・・・はーい」
やった。今日、建てさせてくれるんだ。
でも、午後か。身体的にも力が有り余ってて、ムズムズするんだよね。
ちょっと発散しておきたいな。
「・・・お母様。訓練場で運動しても良い?」
「構わんが、無理はしないように注意しろ」
「・・・分かったー」
ヨシヨシ。訓練場周回数の個人レコードを更新するぞ。
パラパラを踊るかはその場の空気とノリで?
いやいや。私は陰の者だったから、パラパラとか踊った経験は一度も無いんだけど。
お許しを得て、早くも訓練場へ意識がアイキャンフライしている私に、目が笑っているお母様が爆弾を投下してきた。
「フィオレ。呼び方はどうするんだ?」
「・・・ハッ!!」
忘れてた!
昨日、イジられたばかりなのに、お母様が放っておくわけが無かった。
お婆様も微笑ましげな目を向けてきて、セリーナ様が首を傾げる。
「呼び方?」
「・・・あ~、え~っと・・・」
目を泳がせるとセリーナ様の目が私をロックオンしている。
お母様とお婆様の反応からイジるタイミングだと察したのか、セリーナ様もにんまりと目が笑い始めた。
「あら? 私に隠し事かしら」
「・・・いいえ! 決してそういうわけでは無く!」
久しぶりだな、この感じ!