作品タイトル不明
森の仮説 ⑥
「さあ。終わりましたよ」
「ありがと!」
身支度完了とポンと両肩を叩かれたルナリアが、ニッと笑ってマーシュさんにお礼を言う。
ヨシ! 私もポンと膝を叩いて席を立つ。
「・・・行くよ!」
「にゃ」
ノーアもピョンと椅子から降りた。
まだ夜明けまで数時間。廊下へ出ても暗いから、点々とランプの火が点されている。
レヴィアさんに先導され、私たちはマーシュさんとディディエさんたちを引き連れて、早い朝食を摂りに食堂へと向かう。
「・・・おはようございます」
「おはよう!」
「おはようございます」
セリーナ様とお婆様が揃っている場では、ノーアも挨拶を端折らずにキッチリとする。
大抵、「にゃ」で済ませていることがバレて叱られない限りは、要領が良くていいことだ。
セリーナ様とお婆様とお母様の視線が私に集中する。
「ええ。おはよう」
「フィオレ。体調はどうなのですか?」
やっぱり、私が起きて来るのを待ち構えてたのかな?
アレーナさんから「待て」を食らわされていた元気アピールのチャンスだ。
「・・・全く問題ありません。夜中に目が覚めたのですが、もう元気すぎて、誰か起きていないかと探しに出たらアレーナさんに見つかって連れ戻されたぐらいです」
「ただの魔力酔いで間違いなかったようね」
こめかみに手を添えたセリーナ様が首を振った。
私が大脱出をキメていたことに気付いて居なかったルナリアも私を見る。
「夜中にそんなことしてたの?」
「・・・うん」
正直に自白するとお母様は目を笑わせている。
「問題は無いようだな」
「まあ、良かったとしましょう」
「昨日、何が有ったか聞いていますか?」
来たか。
軽い感じでは有るけど、確認するお婆様たちの声には咎める色が有るね。
「・・・アレーナさんとレヴィアさんから聞きました」
「大事を取る意味でも、多くの人に迷惑と心配を掛けた罰としても、今日は採掘場へ行くことを禁じます。いいですね?」
「・・・承知しました」
神妙な顔でお婆様からのペナルティ宣告を受諾する。
抵抗しない私にセリーナ様が首を傾げた。
「反論しないのね」
「・・・描かなきゃいけない図面もあるので、今日は大人しくしています」
「図面というのは?」
納得の表情を見せながら、セリーナ様が詳細を問うてきた。
お母様からゴーサインは出ていたけど、セリーナ様からも承諾を貰っておくべきだよね。
セリーナ様もお婆様も私の中身を知らないからなあ。
どう伝えるべきか。
「・・・うーん。昇降機とでも言いますか、採掘場の崖上と崖下で馬を上げたり下ろしたりする機構です」
「あら。そんなことが出来るの?」
お? セリーナ様も興味あるっぽい?
昨日、足元の悪い森を歩かされたせいか、それともボス犬に狙われたせいか、意外とハードルは低いのかも。
「・・・吊り下げ式の門扉を開けたり閉めたりしますよね? あの門扉をカゴにすれば、高所と低所を上げ下げ出来ると思うのです」
「どうなの?」
「門扉よりも馬の方が遙かに軽い。技術的には十分に可能だろう」
私の説明に、セリーナ様の目がお母様とお婆様へ向き、お母様の答えにお婆様も頷く。
もう一押しかな?
「・・・安全性の問題が完璧とは言えませんので人間の運搬には使えませんが、領軍の兵士さんたちから設置の要望が出ていることと、猟師さんたちも崖上での作業が増えましたから、早急に対応したいと考えています」
「便利そうだけど、安全性の問題というのは何なのかしら?」
よくぞ訊いてくれました!