作品タイトル不明
森の仮説 ⑤
ボス犬で頭に血が上ってたせいか、記憶に無いな。ルナリアが頷き返してくるのだから、たぶん、私が言ったんだろうね。
少なくとも、猟師さんたちの誰かが、私の口からそう聞いたわけだ。
「猟師たちにさせなきゃいけなかったのよね?」
「・・・そうだよ。私たちが居なくても安全に回収できるようになって欲しくて黙ってた」
私の説明にルナリアも頷く。
領民に被害を及ぼす可能性が有る魔獣の討伐も領軍の仕事の一つでは有るけど、カリーク公王国と国境を接していて、将来的には勇王国や神教会とぶつかる可能性が有る以上、私は魔獣よりも厄介な敵は人間だと考えている。
将来、私たちが領軍を率いて戦争をしている間にも、魔獣の駆除案件は発生し得るんだもの。
戦争中だからと言って、人間の都合に魔獣が合わせてくれるとは考えていない。
私たちが戦争している間ぐらいは、猟師さんたちだけで魔獣の駆除処理は出来て欲しい。
「シーヴァの絞り汁もビネガーも効いたから、ケガ人も出なかったわよ」
「・・・そりゃあ良かった。任せても大丈夫そうだね」
秘密兵器は所定の効果を発揮して、失敗兵器にならずに済んだらしい。
失敗兵器や珍兵器で笑いが取れるのは無関係な人だけだ。
当事者にしてみれば自分たちの命が掛かっているのだから、少しでも効果が見込める手札は一枚でも多く手元に欲しい。
「一応、予定通り1000ヶ所を目指すんだって」
「・・・そうした方が良いよ。もしも、シカと同じなら、しばらくは駄犬も出没し続ける可能性が有るから」
猟師さんたちも油断はしていなかったか。
予想していた魔獣は狩り尽くしたけど、他にも居る可能性が有るからね。
私としては、別の角度の可能性に気付いてしまっているけど、無用な不安を与えたくないから、可能性を口にするのは、もう少し確度が高まってからにしたい。
シカの謎に加えて”駄犬の謎“が提起される事態になれば、お母様たちと相談かな。
最悪のケースだった場合、根底から森との向き合い方を考え直す必要が出て来る。
苛立ちが籠もった私の言い草にルナリアが首を傾げる。
「だけん?」
「・・・駄目な犬、で、駄犬。真っ先にノーアやお母様たちを狙ってきたんだよ、あのボス犬」
今、思い出しても腹が立ってくるよ。
正確には、脅威度が低く見えたノーアとセリーナ様とお婆様を狙ったんじゃないかと思うけど、私にとって、私の家族は地雷原だ。
家族を狙われれば、私は簡単に爆発する。
もちろん、私にも油断が有ったことは否めない。
ピンポイントで私の弱点を突かれたのは事実だ。
今後は接近される前に全周防御で魔力の手の防壁を作るようにするけどね。
それでも腹が立つ。
「犬じゃなく、森オオカミよ?」
「・・・犬で十分だよ。あんなの」
くっそぅ。
八つ当たりに等しいのが分かっていても怒りが収まらない。
「それ、マーミナとマーリカの前で言っちゃダメだからね?」
「・・・むっ。それは気を付けなきゃだね」
マーミナさんマーリカさん姉妹とは関係なくても、狼系に誇りを持ってる二人の前で狼系を貶めるのは良くないな。
仕方ない。ポロッと口に出ないように、バンダースナッチを駄犬って呼ぶのは止めるか。
口が慣れていると、ポロリ常習犯の私はどこでポロリするか分からない。
指摘を受け入れたことで軟化したルナリアの目が、改めて私に向いた。
「今日、採掘場で、しておくことって有る?」
「・・・ワナの増設を優先しながらで良いから、バンダースナッチのお代わりが来ていないか、痕跡を探させて欲しいかな」
予想外の答えだったのか、目を丸くしてパチパチと瞬く。
「また来るの?」
「・・・まだ分かんない。けど、その可能性は有ると思ってるよ」
「むー。フィオレがそう言うなら、来そうよね」
明言しなくても私の懸念を感じ取ったらしいルナリアが表情を難しくする。
情報が不足してるから断言し辛いんだけどね。
まあ、多少、情報が増えたところで予想に過ぎないんだけど。
「・・・私が呼んでるわけじゃないよ?」
「分かってるわよ」
誤解を生まないように念押しすると、ルナリアがフフッと笑う。
「・・・ルナリアも油断しないようにね」
「うん!」
出禁で傍に付いていられないのは心配だけど、ピーシーズもお母様たちも付いているなら大丈夫かな。
注意喚起はしたからルナリアが油断し過ぎることは無いと思う。
万全を期すために、お母様たちにも注意喚起しておかないと。