作品タイトル不明
森の仮説 ④
「・・・ちょっ! え~っ!?」
「シェリア様から、周囲を心配させて迷惑を掛けた罰だそうです」
「・・・うっ!!」
反論の余地が無い!
ヒョイと足首を持ってもう片足も突っ込まれて、おヘソの上まで乗馬パンツをグイッと引き上げられた。
ペナルティかあ・・・。
二度目なんだから、想定外って言い訳では許されないもんなあ。
私自身がやらかした結果だからペナルティは仕方がないとして、バンダースナッチ問題は昨日のアレで終息したと考えるのは早計だと思う。
その辺の注意喚起だけでもしておく必要があるんだよなあ。
ポンと手を打ってドアへ向かう。
「・・・ヨシ! 罰は受け入れるけど、認識の摺り合わせをしておく必要が有るから、お母様たちと話しに行ってくるよ!」
「ちょっ! ふぃ、フィオレ様! 身だしなみぐらい整えさせてください! ほら! パンツの前ボタンを留めて!」
おおっと。「理科の窓」が全開だったか。
ご指摘を受けてボタンダウンのパンツを見下ろせば、お股からドロワースの一部が強めの主張でコンニチワしている。
このドロワーズめ、活きが良いな。
「〇〇の窓」ってのは、ズボンやスカートの線ファスナーが開きっ放しのことを指すらしいけど、バイト先のオバサンに教えて貰った揶揄だから由来は知らないんだよね。
きっと教えてくれたオバサンも由来は知らなかったのだろう。
オバサンから教えて貰った通りオジサンたちには「社会の窓」で通用したから、旧陸海軍が使用していた機密電文みたいに、中高年男女の間だけで通じる暗号のようなものなのだろうと理解していた。
自分たちの間で通用するだけでなく、世間一般という名の連合軍側にも電文内容がガバガバに漏れてるって意味で。
私を連れ戻しに来たレヴィアさんの顔を見上げる。
20歳前後のレヴィアさんは中高年じゃないから、たぶん通用しないな。
「どうかされましたか?」
「・・・いや。何でも」
むー。大事な話だから急ぐのに。
結局、テーブルに着かされて髪に櫛を入れられている。
有無を言わさぬレヴィアさんの圧力に負けて椅子に腰を下ろしてしまった。
口に出していないのに「中高年」と考えた思考を読み取られたんだろうか?
妙齢の女性に年齢の話はタブーだからなあ。
私の直毛は寝癖もすぐに直るし、顔を洗って歯磨きしている内に櫛を通し終わった。
ルナリアの身支度が終わらないのでダーナさんが淹れてくれたお茶を飲む。
「すぐに出発するわけじゃないんだから、話す時間ぐらい有るわよ」
「・・・そうかも知れないけど、出発間際に大事な話をされても困るものなんだよ?」
出掛けに連絡事項を伝えてくる上司が営業職時代に居たんだよ。
それまで、たっぷりと伝える時間は有ったのに、出掛けようとする部下の顔を見ないと連絡事項を思い出せないような人を中間管理職にしちゃダメだろ、って思ってた。
思ってても私はコミュ障だったから口に出して言えなかったんだけどね。
私を宥めようとするルナリアは、櫛に髪を引っ張られて顔が横に寝たり縦に立ったりと忙しい。
ノーアはティーカップを両手で持ったまま陽だまりの猫みたいに欠伸をしている。
「そんなに急ぐ話なの?」
「・・・ん? 一刻を争う話では無いね」
「にゃー」
うーむ。毒気を抜かれるというかホッコリさせられる。
ノーアを取りあえずヨシヨシしておくか。
ルナリアは、こんがらがった髪が解き上がってからの方が手触りが良いから、ヨシヨシ予約にしておこう。ヨシヨシ。
うちの姉妹たちはリラクゼーション効果が高くて困―――、ぜんぜん困らないな。
はぁー、ヨシヨシ。私、何で急いでたんだっけ?
「フィオレが倒したボスは、大きくて毛皮の痛みが無いから、領主執務室の敷物にするんだって」
「・・・へー。良いんじゃない?」
あの駄犬も、いくらかは役に立つのか。
お母様たちを狙ったことは今も許してないから、鞣しが終わって納品されてきたら念入りに踏ん付けに行こう。
あっ。そう言えば、昨日の残りの2頭って、ちゃんと無事に回収できたんだろうか。
「・・・ルナリア。私が倒れた後、残りの獲物も回収した?」
「罠に掛かった残りの2頭のこと?」
キョトンとした顔で見返される。
「・・・うん。ルナリアにしか伝えてなかったから、どうなったかなって」
「ちゃんと回収したわよ。仕掛けた罠を一通り見て回ろうって誘導はしたけど」
「・・・おお、ありがとう。さすがルナリア」
しっかりと私の意図を理解していてくれたんだね。
伝わっているとは信じていたけど、答え合わせで、ちゃんと意図が伝わっていたことが明らかになって嬉しい。
「でも、フィオレが”残りの2頭は罠に掛かってるから大丈夫”って言ってたのよね?」
「・・・言ったっけ?」
おや。伝聞形?