軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

森の仮説 ③

「いけません。ただでさえ普段から睡眠時間が不足気味なのですから、無理にでも休んでくださいませ」

「・・・だよねー。ところで、今、何時ぐらいなんだろ?」

さすがに、こんな夜中に走りに行ったりはしないけどね。

今の私は盗んだバイクで走り出すほどグレても居ないし、そこまで歳も食ってない。

森で何が起こったのかの確認は大体できたから、残るは現状の確認だ。

「1の鐘が鳴って1時間ほどです」

「・・・はぁー。1時頃か。じゃあ、頑張って寝るしかないなあ」

推定起床時間まで3時間も有る。

これが2の鐘辺りだったら読書で時間調整も有り得たけど、そうも行かない時間帯だ。

「そうしてくださいませ。お腹が空いていらっしゃるようでしたら、夜食用のパンぐらいなら控え部屋にございますから」

「・・・あー。ちょっとだけ貰おうかな。寝やすいかも知れないし」

それは有り難いね。

お腹がくちくなれば眠りやすいだろう。

「暖かいお茶を淹れますね」

「・・・ありがと」

アレーナさんが、ふわっと優しく笑う。

エエ人やあ。

ザ・お母さん、って感じ。

控え部屋で昨日のバンダースナッチ狩りの様子を話しながら、お茶とパン1個をいただいて、ルナリアとノーアを起こさないように、そーっとベッドに潜り込んだら、あっという間に意識が落ちてブラックアウトした。

「―――フィオレ様。起きてください」

「・・・んにゅー?」

ゆさゆさと揺さぶられて、意識が浮上してくる。

床と天井がピッタリと引っ付いている瞼を無理やり開くと、レヴィアさんに覗き込まれている。

レヴィアさんの背後に天井が見えるってことは、私は仰向けになっているのかー・・・。

そっかそっかー・・・。

「フィオレ様の寝起きが悪いなんて珍しいですね」

「・・・むむむ・・・」

私の寝起きが悪いなんて酷い風評被害だ。

前日の疲れが抜けずに起きるのが辛い、なんて、人生に疲れ切った会社員時代とは違うのだよ。

よっこらせ、と、体を起こして、ふあーっと大きな欠伸を一発。

「おはよう! フィオレ!」

「にゃ」

「・・・おはよー・・・。夜中に一度起きちゃったからね」

なんてことだ。

条件反射で返事したけど、まさか、ルナリアよりも起きるのが遅かったとは。

すでにテーブルに着いているルナリアはマーシュさんに 梳(くしけず) られ始めているし、ノーアはティーカップを両手で持って、コタツの猫みたいに緩んだ顔でまったりとお茶を飲んでいる。

「フィオレ様! 体調はいかがですか!? 痛いところは有りませんか!?」

「胸が苦しかったり、熱っぽかったりしませんか!?」

「・・・あー。ダイジョブ、ダイジョブ」

勢い込んだ声でディディエさんたち二人から質問が飛んでくるけど、作業をする手を止めずに顔だけを振り向けてきているのは、私に近付けないように、カーテンを開けて美しくセットするようにでも申しつけられているのだろうか?

テンションを下げるように、どうどうと両手で二人を抑える。

起き抜けに、サッパリしてしつこくないルナリア以外のハイテンションを相手にするのは辛い。

同じハイテンションなら、私の邪気を祓うぐらい清らかなルナリアをお手本にするべきだ。

ベッドの端に腰掛けて片脚ずつ手渡された靴下を穿く。

「昨日は大変な騒ぎだったんですよ?」

「・・・アレーナさんから聞いたよ。みんなに心配させちゃったみたいだね」

アレーナさんから注意を受けたけど、レヴィアさんの声にも諭すような色を感じる。

部屋履きに足を突っ込んで立ち上がると、胸元のボタンを外されて、ズボッと夜衣を引き抜かれた。

おおぅ。そんなに寒くなくても冬場の静電気は起こるんだなあ。

某オカルト映画のメインキャラクターみたいに顔を隠して垂れ下がった髪を掻き分ける。

「昨日のアレが二度目だったとか?」

「・・・あー、そっか。ほとんどの猟師さんたちやレヴィアさんたちは1回目を見てなかったものね」

答えながら肩に掛けられたシャツに袖を通して前ボタンを留める。

情報として聞くのと実際に目撃するのとでは、受ける印象もインパクトも違うよねえ。

基本的に飄々とした態度を崩さない彼女たちが苦言を伝えてくるということは、それだけ心配したのだろうし、大切に思ってくれているのだろう。

「採掘場の守備兵もよ! 温度差が凄かったんだから!」

「・・・そうだろうねえ。驚かせちゃったから、猟師さんたちや兵士さんたちにも謝らなきゃなあ」

と、まあ、私は今日も採掘場へ行く前提で話してたわけだけど、そうは問屋が卸してくれなかった。

「あ。フィオレ様。今日はお留守番だそうですよ」

「・・・ん? お留守番?」

お留守番って、何?

予想の埒外に有った単語を私の脳は理解を拒んだようだった。

乗馬パンツに足を突っ込んでいる最中に言われたものだから、余所見をしたまま呆けてしまう。

すでに片足をパンツに突っ込んでいて、一歩、足を踏み込んで体勢を支えようにもパンツに爪先が引っ掛かって踏み込めない。

ドロワーズ丸出してフリーズして、バランスを崩しかけた私の体をレヴィアさん腕を伸ばしてが支えてくれた。ふう。

「フィオレ様は。お留守番だそうです」

「わたしとノーアとお母様たちで採掘場の後始末は付けてくるけど、フィオレは森に入っちゃダメなんだって」

はあっ!? 出禁!!

さすがにビックリして一気に眠気が吹き飛んだ。

ついでに、手を放したものだから、片足しか突っ込んでいなかった乗馬パンツが足首までずり落ちる。