作品タイトル不明
バンダースナッチという魔獣 ㊻
磔のように大の字で宙に浮く巨大なバンダースナッチから、ホールトマトでも握り潰したかのように、指の間から鮮血やら脳髄やら何やかんやがボトボトと滴って、血と肉片に濡れた巨大な手がいくつも目に見える形で浮いている。
くっそぅ・・・、失敗した。
折角の大物だったのに、ビクンビクンと痙攣する肉塊が、この状態で生きているわけがないよね。
惨たらしい最期を迎えた肉塊を一瞥して、お母様が身を翻す。
「フィオレ。気を抜くな」
「・・・あっ、ハイ」
あー、いや。お母様の言う通り、今は反省してる場合じゃないな。
溜息を吐きながら魔力の手を消すと、落ち葉を巻き上げて毛皮に包まれた肉塊がドスンと落ちる。
魔力の手の表面に貼り付いていた血液や諸々の有機物もベシャリと地面に落ちる。
まだ戦闘は続いているし、お婆様たちは獲物の捕縛が終わるまで高所の綺麗な空気でも吸っていて貰うとしよう。
森林浴のリラクゼーション効果との合わせ技で、お婆様たちのお肌に艶と張りが出て運気も上がるかも知れない。
「怯むな! 群れのボスはもう討ち取った!」
「「「「「はっ!!」」」」」
お母様の一喝で、浮き足立っていたみんなが落ち着きを取り戻す。
そっか。有利な戦況を伝えるのも大事だよね。
戦闘を指揮するっていうのは、こういうことなんだな。
お母様が心理的にケアしたことで、明らかにみんなの動きが良くなって安定感が増した。
この状態なら、みんなが落ち着いて想定通りに狩れるはず。
「グアルッ!?」
魔力の手を伸ばして1頭を上から押さえ付ける。
おや。コイツは魔力の手を避ける素振りが無かったな。
周りを見回すと、そこここで猟師さんたちが他の5頭の駄犬どもに武器を突き付けて睨み合っている。
あれ? 6頭?
もう1頭は? と、探したら、背中から腹を剣で串刺しにされて地面に縫い付けられて藻掻いている個体がいて、左手1本で両手槍を操って包囲に参加しているジアンさんが居た。
串刺しの1頭が藻掻いても剣を引き抜けずにいるところ見ると、ジアンさんの魔力の手が剣を抑え込んだままなのかも。
早くも実戦で新技術を使いこなしているのだから、さすがだよ。
「・・・みんな、強引に倒しに行かないで、間合いを取って牽制して!」
「「「「「おうっ!!」」」」」
武器を前面に押し出せば、獰猛な魔獣だって不用意には近付けなくなる。
一人に狙いを付けようとすれば横合いから突かれそうになり、囲まれた獲物が集中力を失う。
「ガアッ!!」
「うおっ!?」
突き出された両手槍の穂先を躱して柄に噛み付いた固体の顎から炎が噴き出す。
噛まれた槍を手にしている猟師さんが焦った顔をしているけど、横合いから別の槍が突き込まれて顎を放すと柄に焦げ跡と歯形を残して炎は消えた。
「・・・おおっ。あれが火魔法の発現器官ってヤツ?」
鼻先に近い上下に生えた牙の辺りから炎が出ているように見えたけど、噛むと自動的に火が出る仕組みでは無いようだ。
てことは、触角ヘビの毒牙のような物理的構造を持つ器官ではなく、意志をもって魔法的な効果を発現させているのかも。
つまり、魔獣も意志を持って魔法を使うわけだ。
そりゃあ、囲む側も慎重にならざるを得ないよね。
器用な個体なら炎を飛ばしてくることができるのかも知れないし、バンダースナッチという魔獣に対する理解不足を実感する。
うーむ。アスクレーくんの実家なら、もっと詳しい情報を持って居たりしないかな?
残り5頭にまで個体数が減れば、1頭あたり10人弱で囲んでいることになる。
囲みを破って逃げるのも容易ではないだろうけど、ボス駄犬を討ち取られても逃げようとしないのは、攻撃性が強い凶暴な魔獣ならではの習性だろうか。
「・・・投げ縄班! 動きを止めて!」
「「「「「はいっ!!」」」」」
私が押さえ付けている個体の首にも2本の投げ縄が掛かったので、魔力の手を消す。
次々と投げ縄が掛けられて、全ての個体が自由を奪われる。
こうなれば、もう安全だ。
お婆様たちが悠然と見下ろしている柱をズズズと下ろす。
セリーナ様とお婆様は地上5メートルの空の旅から無事にタッチダウンを決めた。