作品タイトル不明
バンダースナッチという魔獣 ㊹
今、処理した個体に較べて、現在地点から近いワナに掛かっている個体は魔力の反応がかなり強い。
おそらく魔力の強さに比例して体格も大きな個体なのだろうと予想する。
思って居なかった答えだったのか、ルナリアが目を剥く。
「そうなの!?」
「・・・だから、魔力の手でシーヴァを絞るの手伝ってあげてね」
ヨシヨシ。落ち着こうね。
頭を撫でてもルナリアは目を丸くしたままだ。
「魔力の手で絞るの?」
「・・・その方が早くて簡単なんだよ。みんな、麻袋に放り込んだシーヴァを担いでるじゃない? あの麻袋を丸ごと魔力の手でギュッと握り潰して手桶で絞り汁を受ければ一瞬で終わる」
理解が追い付くとパッと表情が明るくなる。
「おお~。そうすれば、すぐに、みずでっぽうを使えるわね!」
「・・・そそ。オマケに魔力の手だから絞った後に汚れた手を洗う必要も無いんだよ」
「そうね!」
ほんと便利だよね。
飛沫感染や空気感染でも無い限り、感染予防の手洗いすら必要無い。
いつもより元気なぐらいに見えるけど、一応、確認しておくか。
「・・・魔力酔いは、もう平気?」
「まだまだイケるわよ!」
だろうね。そう見えるよ。
「・・・そ? でも、無理はしないように―――、あっ!」
「どうしたの?」
アクティブソナーの探知範囲に複数の反応が飛び込んできた。
状況が飲み込めていないルナリアを背中に庇って位置取りを変える。
ヤッバ! めっちゃ強い魔力の反応が一つある!
「・・・敵襲っ!! 8時の方向! 急速接近!!」
「「「「「ええっ!?」」」」」
私の叫びに、みんなが驚きの声を上げる。
私の目線を追ってルナリアも叫ぶ。
「せ、戦闘態勢―――ッ!!」
武器を抜き放って、みんながドタバタと迎撃態勢に移行する。
指示した方向に向き直って目を凝らす。
いくつもの白っぽい陰が上下に揺らぎ、落ち葉が舞い上げられている様子が見て取れる。
アクティブソナーでは反応がバンダースナッチかどうかまでは判断できないけど、アタリで確定だ。
犬は社会性がある動物だと聞くし、ワナに掛かった仲間を奪い返しに来たってことだろうか?
「ほ、本当に来たぞ!」
「バンダースナッチの群れだ!!」
拙いな。心の準備が出来ていなくて浮き足立ってる。
生意気にもジグザグに進路を変え始めて敵の姿が見えにくくなる。
「・・・みんな、少し下がって! 敵との間にワナを挟んで迎え撃って!!」
「「「「「お、おうっ!!」」」」」
猟師さんたちが位置取りを変える。物理的に衝突する前に上手くワナに掛かってくれれば迎撃対象が減るからね。
対処すべき敵が減るほど心理的に持ち直すはずだ。
ワナを避けられたとしても接近ルートを限定できれば、いくらかの余裕は、きっと生まれるだろう。
木々に遮られていても、相対距離が100メートルを大きく切れば個体の判別もできてくる。
「・・・うーわ。でっか!」
群れの先頭を駆ける個体はホルスタインよりもかなり大きいように見える。
白っぽいから乳牛を連想しただけで姿は似ても似つかないけど。
アレ、胴体長だけで3メートルぐらい有るんじゃない!? 距離感がバグるよ!
しかも動きが機敏で速い!
魚群みたいに群れごとクイックターンで右へ左へと進路を変えて木々の間を駆けてくるから、見失わないように目で追うだけで精一杯だ。
犬って、あんなに機動力が有ったっけ?
「あれが群れのボス!?」
「・・・たぶん!」
私の背中越しに見ているルナリアに答える。
「全部で8頭!」
「ほかの2頭はどこだ!?」
猟師さんたちの間で声が飛び交う。
11頭の群れで1頭が始末済みで8頭居るから残りは2頭って計算かな?
「・・・残りの2頭は他の場所でワナに掛かってるから、目の前の敵にだけ集中して!」
「「「「「えっ!? は、はい!!」」」」」
猟師さんたちから上がった声に答えると、動揺気味な返事が返った。
あちゃあ。ワナに掛かった個体を把握していることを伝えておくべきだったか。
丁寧に説明している猶予は無いから強引に行く。