作品タイトル不明
バンダースナッチという魔獣 ㊸
禁輸品になっている魔石は加工場から全量が領主館に納品されるようになっている。
毛皮と牙も魔石と一緒に納品されてくるのだろう。
犬肉を食べる文化は地球でも古くは世界各地で普通だったみたいだし、気にすることは無いんじゃないかな。
犬肉の味にも、ちょっと興味あるし。
「・・・みんな血を飲んじゃって。血抜きで吊したら回収は後回しにして次へ行くよ」
「「「「「ウィーッス」」」」」
ケガ人ひとり出さずにバンダースナッチを討伐できたことに安心したのか、返事が緩んでいる。
引き締めが必要かなあ・・・。
いやいや。あんまり締め付けても良くないよね。
シカの回収業務では上手く回してくれていたのだから、もう少し様子を見守ってみよう。
上手く引き締め直してくれるものと信じなければアウトソーシングなんて成り立たない。
喉を掻き切られた獲物が後ろ脚を枝に吊され、傷口から滴る血をカップに受け止めて一気に煽る。
嚥下した喉元を過ぎて胃へ落ち込んだ瞬間、爆発的に熱が弾けて口元を押さえる。
「・・・う、わ・・・。スッゴい」
魔力がざわめくどころか、胸の中で渦巻くように暴れている。
頭がくらりと揺らぐけど、久しぶりの感覚に両足を踏ん張って堪える。
これが魔力酔いか。そりゃあ、こんなの、慣れていないとひっくり返るよ。
「おお・・・。こりゃあスゲエな」
「猟を始めた頃、以来か?」
あちこちで響めきが上がっていて、周りを見回すとルナリアもピーシーズも猟師さんたちも、血を飲んで目眩がしたのか頭に手を当てて堪えている。
「・・・ルナリア。大丈夫?」
「ぐぬぬ・・・! だ、大丈夫よ!」
現にひっくり返っている人は居ないし、確かに耐えられないほどじゃないな。
「魔力の活性化が凄いわね」
「興味深いですね」
「魔獣の違いで起こる現状なのか、何なのか、他の魔獣と較べてみるべきか」
セリーナ様とお婆様とお母様は、トリアさんたちが配った口直しを飲みながら意見を交わしている。
怪しそうなのはディディエさんたち二人とノーアぐらいかな?
ディディエさんたちはしゃがみ込んでいるし、ノーアはお母様に抱き上げられて、すでに気持ち良さそうに寝てしまっている。
「・・・ふむ」
「魔獣の違いで」か。良いね。
他の魔獣でも魔力酔いが起こるものなのか、どんな条件が有るのか、ぜひ、比較検証してみたい。
体内の「魔力の活性化」というものを、ここまで明確に認識して意識したことは無かったな。
強いお酒を飲んだような胸の熱さは有っても、心拍数が上がって心臓がドキドキするような感覚が無いのはお酒との違いだろうか。
鼓動に合わせてジワジワと胸の熱が体内に広がっていく。
熱の範囲が広がるにつれ、目眩が収まって、胸の熱が温度を下げていく。
いや。これって「収まった」のではなく、体内に拡散することで平均化が起こってるんじゃ?
おっと。猟師さんが呼びに来たね。
全員が血を飲み終わったかな?
「フィオレ様。作業完了です」
「・・・次、行こっか」
「はっ」
魔獣の違いは相談案件で棚上げして、今は獲物の回収に集中しなきゃね。
魔力量増加や魔力酔いはサンプル数を積み上げないと統計的な推測も立てられないし、今、考えても答えが出るものじゃない。
猟師さんたちの様子を見た感じ、次の獲物の位置を発見できていないみたいだね。
誰かが明確に先導しているわけでもなく、自然発生的に猟師さんたちが移動を始める。
うーむ。現在地は獣道の合流地点を東側へ少し外れた辺りで、私のアクティブソナーが捉えている反応では、次の獲物は、さらに東方向なんだけどなあ。
誰か気付いてくれないものか。
私の視線が向いた方角で気付いたのか、ルナリアが傍に寄ってくる。
「あっちなの?」
「・・・そうなんだけど、まあ、みんなに任せておこうかな」
声を潜めるルナリアに私も声を潜めて返す。
私が自分で風呂敷を広げまくるせいで、やることが多いことをルナリアは分かってくれているからね。
「忙しいものね」
「・・・まあね」
くすくすとルナリアが笑っていることで、揶揄されているのは分かってるけど事実だから仕方ない。
この程度のイジられ方で私が気分を害したりしないし、それを分かってくれているルナリアと二人で一緒になってくすくすと笑う。
「みずでっぽう? 使わなかったわね」
「・・・次は使うことになると思うよ」
これは、確信を持って言っている。