作品タイトル不明
バンダースナッチという魔獣 ㊶
ほんの小さなことだけど、ルナリアの成長が感じ取れて嬉しいよ。
ただまあ、魔力の反応から見て、ワナに掛かった獲物は真っ直ぐ北上した辺りなんだよね。
事前の指示では崖側から時計回りにワナを確認して回るように言ったけど、変更させた方が良いかな?
でも、変更させてダイレクトに獲物の下まで直行しちゃうと、獲物の位置を把握していたことがバレちゃうよね。
演習の意味を重視するなら、このまま黙っておくべきだ。
演習なんてそんなものだと理解していても、わざわざ遠回りして無駄な労力を掛けさせるのは心が痛む。
いやいやいや。対応方法を覚えるためなんだから心を鬼にしろ!
将来の事故率を下げるためだ!
門が開ききり、警戒態勢の進軍が始まる。
ぐるっと回っても3キロメートルにも満たない距離だし、頑張って貰うか。
「・・・索敵してよっと」
もしかしたら、探知圏外から急速接近して奇襲戦を仕掛けてくるかも知れないしね。
自然と2列縦隊を形成した猟師さんたちが、上へ下へ周囲へと視線を走らせつつ森を進む。
足元にも気を付けていないと、昨日自分たちで仕掛けたワナで自爆しちゃうからね。
斜めに張ったロープでワナの存在は分かりやすいけど、頭上にぶら下がっている重石も見落とさないように。
吊り荷の下の入らないのも現場の鉄則だよ。
言葉も無く、足音を抑えて、30分間掛けて小川へと到達した。
ワナに気を付けつつ警戒を維持することにも徐々に慣れてきたみたいで、少しだけ進むペースが上がってきたね。
ここからしばらくは小川に沿って北東方向に進む。
遠くへと目を凝らしていた猟師さんの一人が一方を指した。
「居たぞ。バンダースナッチだ」
「・・・ほほぅ。アレが」
1時の方向、距離300と言ったところか。
木々の間に白っぽいものが 立っている(・・・・・) 。
木々と落ち葉の焦げ茶色と枝葉の暗い深緑色の中に白色が混じっているから目立つだけで、背中の毛はネズミ色と言った方が良いのかな?
お腹の毛や柔らかい冬毛が白いのが目立つのか。
ネット事典で画像を見たことが有るタイリクオオカミが、あんな色じゃなかったかな。
二足で立ち上がっているように見えるのは、前足をククリに囚われて高く吊り上げられているせいだろう。
左前脚を高く吊り上げられて、サタ〇ーナイトフィーバーのキービジュアルみたいなポーズでトラボルっているようだ。FOO!!
「接近するぞ」
「警戒も怠るなよ」
猟師さんたちが互いに声を掛け合て獲物を目指す。
私もトラボルっている獲物に気を取られて索敵を疎かにしないように気を付けないとね。
私の頭の中では、テレッテッテーテッテレレ、テレッテッテーテッテレレ、と、トラボルったサ〇デーナイトフィーバーのイントロダクションが無限リピートしているけど集中だ。
いや、待て。テレッテッテーに集中するんじゃない。
拙いぞ。テレッテッテーで頭の中が一杯になってきた。
探知が出来るようになったことを誰にも話していなかったせいもあって、計測したことが無いから正確には分からないけど、おそらく、私の魔力は、1キロメートル以上は先まで届いていると思うんだよね。
もっと遠くまで届かせようと思えば出来ると思うけど、「蒼焔」をポロリしていたのと同じで遠くなればなるほど魔力制御が甘くなるのだから、人命の安全が掛かっている場面で精度が甘くなって索敵に穴が生じては意味が無い。
それなら確実だと確信が持てる範囲に絞った方が安心できる。
300メートルなんて慎重に進んでも5~6分間だよ。
「グルルルル・・・!」
しばらく前からバンダースナッチの唸り声も耳に届いている。
唸り声も丸っきり犬系だよね。
鼻先が長いのは犬系と言うよりも原種に近いオオカミ系か。
20メートルほどまで近付けば獲物の体格も判別できるけど・・・。
「フィオレ様」
「・・・うん。ボスじゃないね」
「そんなの分かるの?」
猟師さんの声に答えると、ルナリアが不思議そうな顔をした。
「・・・前足の大きさが全く違うもの」
「あ。そっか」
前足と言われて馬鹿デカい足跡を思い出したのか、ルナリアが納得顔で頷く。
「・・・あの大きな足跡は1.5ルナリアぐらい有ったし」
「何? その単位」
あれ? 言わなかったっけ?
怪訝な表情で私を見返しているルナリアだけじゃなく、猟師さんたちも不思議そうに首を捻っているところを見ると、言わなかったんだな。
よく覚えてないけど。
「・・・ルナリアの顔の大きさと比較した単位だよ」
「それが1.5?」
「そ。1.5倍」
何とも形容しがたい表情で口元をモニョモニョさせているルナリアの向こうで、猟師さんたちが肩を震わせている。
緊張しすぎも良くないが、イカンな。
作戦行動中は作戦に集中したまえ、キミたち。