軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

バンダースナッチという魔獣 ㊵

「・・・こんな感じなんだけど、お母様。これで良い?」

「良いんじゃないか」

振り返って確認すると、私たちのやり取りを見守っていたお母様もニヤリと笑った。

ヨシ! 最後にビシッと締めて 喝(かつ) を入れるか!

「・・・ありがと。安全第一で崖上の門を出たら左側から時計回りにワナを確認して回るよ! じゃあ、みんな! ご安全に!!」

「「「「「ご安全に!!」」」」」

現場での作業開始前と言えばコレでしょ!

即座に応えたのは、直線道路開拓のときに毎日唱和していたルナリアとピーシーズだ。

採掘場の防衛施設建設に参加していたらしい兵士さんたちも、一緒になって唱和している。

「「「「「えっ?」」」」」

えっ? じゃないよ?

動揺する猟師さんたちを置き去りに、リトライを命じる。

唱和しなかった人たちにグリンと顔を向けてビシッと指す。

「・・・やり直し! ご安全に!!」

「「「「「ご、ご安全に!!」」」」」

今度は動揺しつつも、ほとんどの人が反応する。

だが、まだ甘い。

そんなことでは炭鉱夫に勝てないぞ!

「・・・もう一度! ご安全に!!」

「「「「「ご安全に!!」」」」」

ヨーシ! スッキリした!

みんなの心が一つにまとまったところでバトンタッチだ。

ポンとルナリアの背中を押す。

「みんな、行くわよ!!」

「「「「「おう!!」」」」」

ルナリアが突き上げた拳に、みんなが拳を突き上げて応える。

身を翻して猟師さんたちが階段へと向かっていく。

水鉄砲班は気を回して用意してあったらしい麻袋を手に木箱に群がって、タマネギとお酢のボトルを袋に放り込んでから階段へ向かう。

準備良いな。

「投げ縄を扱う方は、こちらへ!」

私たちが炭鉱夫の壁を乗り越えている間に、ミセラさんたちはロープを調達しておいてくれたようだ。

備品倉庫からロープを運び出してきてくれたのは採石場の兵士さんたちかな?

猟師さんたちと一緒にナンナちゃんもロープを受け取って、歩きながらロープの端っこで「投げ縄結び」を作り始めている。

「敵影ナシ!!」

「開門!!」

私たちが崖上に着くと同時に、警戒に就いていた兵士さんたちの間で声が飛び交う。

ギシギシと軋みを上げて超重量の門扉が持ち上がり始める。

「・・・ふむ」

ボーッと待っている時間が勿体ないし、私は索敵しておくか。

魔力の手を足元の地面に差し込んで、水面の波紋のイメージで魔力を防壁の外側へ広げていく。

採掘場の外側に私たち以外の反応は無いな。

広がった魔力に反応して、採掘場の囲いの中でシカたちがウロウロし始めたぐらいだ。

ずっと離れた場所に強い魔力の反応がいくつか有るのがバンダースナッチかな?

ついでにアクティブソナーで触角ヘビも探しておくか。

魔力の手を大きく広げて前方へと押し出していく。

「備えろ!!」

「「「「「おう!」」」」」

有事の召集経験が有るらしい猟師さんが声を掛けて、両手槍を持った猟師さんたちが門の前で横並びになって臨戦態勢を取る。

エゼリアさんたちもお母様たちの前へ出ている。

ジアンさんとピーシーズとミセラさんたちもルナリアと私の前へ立ち位置を変える。

驚いたことにジアンさんは右腰に提げていた剣を左腰に提げ替えていて、早速、魔力の手で剣を振るつもりのようだ。

戦闘能力が無いに等しいディディエさんとダーナさんは、セリーナ様とお婆様の傍に控えている。

見張りの兵士さんたちは魔獣の姿を発見していないけど、四つ足の動物は走るのが速く、走る姿勢が低いから、開ききっていない門でも隙間から駆け込んでくる恐れが有るからね。

今は私が索敵していて隠れている魔獣が居ないことが分かっているけど、猟師さんたちの対応は正しい。

私が居なくても安全に回収作業をして貰いたいのだから、対応が間違っていないなら差し出口を挟む必要も無い。

これも演習だよ。

私の隣に立ったルナリアがニュッと私の顔を覗き込んでくる。

私が密かに索敵していることに気付いてたか。

「どうなの?」

「・・・あー、確かに掛かってるかな。たぶん3頭だよ。触角ヘビも今のところ居ない」

索敵していながら私が何も言わない意図も分かっているようで、ちゃんとルナリアは声を潜めている。

大きくて高い声がヒソヒソ話に向いていなくて、声を潜めるのに苦労していた頃が懐かしいね。