作品タイトル不明
バンダースナッチという魔獣 ㊴
「・・・姿は見た?」
「いいえ。今も歩廊から監視は続けていますが、まだ確認できていません」
夜中の森は、星明かりどころか月明かりも届かないから真っ暗だしね。
空が白んできても、ワナを仕掛けた計画区域は500メートル以上離れた場所だし、木々が邪魔になって見通せないからね。
「掛かったのかしら?」
「・・・恐らくね。ワナに掛かっていない個体が襲って来る可能性が有るから、気を引き締めて行かないとね」
あくまで可能性の話で、襲って来る可能性は低いと思ってるけどね。
回収に出る前に情報共有しておくか。
目が合ったミセラさんたちをチョイチョイと手招くと、ササッと駆け寄ってくる。
「お呼びですか?」
「・・・情報共有しておくことができたから、みんなを集めてくれるかな」
「承知しました」
ミセラさんたちが集合を伝えに走っている間に、ルナリアとピーシーズを連れて別の兵士さんにも訊いたけど、持っている情報は、ほぼ同じだった。
聞き取りに応じてくれた兵士さんにお礼を言って開放し、みんなが集まっている場所へ急ぐ。
石材を積んである場所を背中にお母様たちが居て、お母様たちの周囲にエゼリアさんたちが居る。
猟師さんたちに道を譲って貰って一番前まで出ると、お母様たちが待ち構えていた。
「改まって、どうした?」
「・・・どうやら、バンダースナッチが掛かってるっぽいんだよね」
私の報告に、ノーアの手を取って捕獲したままのセリーナ様が目を丸くする。
「あら。もう掛かったのね」
「・・・まだ寄せ餌も使っていないので数は少ないと思うのですが、ワナに掛かっていない個体が 彷徨(うろ) いている可能性が有ります」
状況を理解したセリーナ様の表情が引き締まる。
セリーナ様に視線で意見を求められたお婆様が軽く肩を竦める。
「討伐が目的ですから、防壁の中へ閉じ籠もっているわけにも行きませんね」
「・・・うん。だから、回収作業は班を分けずに行こうかと」
「状況が明確になるまでは、その方が良いでしょう」
お婆様の同意を得られたところで猟師さんたちへと目を向ける。
キリッと引き締まって男前になっている猟師さんたちの注目が私に集まる。
「装備はどうしますか?」
「・・・各自、剣か槍は必ず装備して。あと、投げ縄ができる人は何人いる?」
ナンナちゃんをはじめとした心得のある人たちがスッと手を挙げて、レヴィアさんが即座に集計に掛かる。
「11―――、12人ですね」
「・・・その人たちは投げ縄を装備して、ワナに掛かっていないバンダースナッチと遭遇した際は、動きを止めることに集中してくれるかな」
「了解です」
緊急組成された投げ縄班が一斉に頷く。
「・・・武器を持ってる人は逃がさないように囲んで牽制。投げ縄を掛けやすいように誘導してくれるかな」
「罠に掛かっている奴はどうしますか?」
手を挙げた猟師さんの質問に、お母様を真似た不敵な笑みで応じる。
「・・・同じだよ。2本も縄を掛けられれば安全にトドメを刺せるだろうし、基本的に全員が交代で一撃入れられるように動いて」
「承知しました」
シカの回収を始めた頃を知っている猟師さんたちだから、「全員が一撃」の意図を理解してニヤッと笑って応えてくれた。
この猟師さんたちも、いわば戦友だからね。
しっかりと握りしめられた手がバッと突き上げられる。
「ミーズディッポゥはどうしますか?」
「・・・それは秘密兵器だから、使いたい人は手桶にシーヴァかビネガーを突っ込んで各自で持ち運んでくれるかな。シーヴァは絞り汁を使うから数が要るよ」
水鉄砲を大事そうに握りしめた猟師さんたちが頷き合う。
折角作ったのだから使いたい気持ちは分かるけど、それが目的じゃ無いからね?
「・・・あと、移動中は足元と頭上にも気を付けて、ワナに掛かったり重石に押し潰されたりしないように! 自分たちのワナでケガなんてしたら間抜けすぎるからね!」
数人を適当に指しながら笑って言うと、猟師さんたちの間からも笑い声が上がった。