軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

バンダースナッチという魔獣 ㊳

「フィオレ! わたしは!?」

「・・・魔石を握った手をこっちに出して」

「こう?」

素直に右手を差し出してくるルナリアに馬を寄せて、手のひらを開かせてルナリアが握っていた魔石を10センチメートルほど上に摘まみ上げる。

「・・・この状態で魔石の魔力を使えそう?」

「んー・・・。できるわね」

昨日、ジアンさんにも試して貰ったけど、ルナリアも魔力の放出を問題無くできていることが証明された。

その上で魔石の魔力に干渉できているということは、放出した魔力に感知能力も有るわけだ。

腰のポーチから魔石を取り出してルナリアに差し出す。

「・・・じゃあ、両手に魔石を持って、右手の魔石を通した魔力で左手の魔石を感じ取れる?」

「む・・・。こっちの魔石の魔力で、こっちの魔石を・・・」

私から受け取った魔石を左手に持ち替えて、ルナリアが左右の手を見比べ始める。

パチパチと瞬きしたルナリアの口がビックリしたようにパカッと開いた。

「分かるわね」

ルナリアは反応がいちいち素直だからクスッと来る。

右手から左手へルナリアが伸ばしている魔力は私の目にも見えないけど、魔力が動いている気配ぐらいは分かる。

「・・・だったら出来るはずだよ。魔石を通した魔力をギュッと固めてみて」

「ギュッと。―――、出来たわ!」

この辺りの感覚は本人にしか分からないものだけど、ルナリアが出来たと感じているのだから出来ているのだろう。

「・・・それ、動かせるよね?」

「動かせるわね!」

ヨシヨシ。

じゃあ、仕上げに掛かろうか。

道路脇に落ちている小枝に魔力の手を伸ばしてヒョイと拾ってくる。

魔力の手から小枝を受け取ってルナリアに示す。

「・・・ルナリア。この小枝の先っぽに防御術式を使ってみて」

「ん。使ったわ」

ルナリアの返事を待って小枝から手を離すと、小枝が宙に浮いている。

ヨシ。成功。

「・・・動かしてみて」

「おおっ! 動くわね!」

よほど嬉しかったのか、ビュンビュンと風切り音を響かせて小枝を振り回している。

なんかもう小枝の音じゃないよね、それ。

「・・・それが魔力の手だよ。さっき、右手の魔石で左手の魔石を感じ取れたよね? 魔石を通した魔力で自分とは違う魔力を感じ取れたってことだから、自分から離れた場所まで魔力を伸ばせば隠れてる触角ヘビを見つけられるよ」

きょとんとしたルナリアが、私と私のさらに向こう側に居るジアンさんの顔を見比べる。

私を覆うように私のものとは違う魔力を感じるし、感触に覚えの有る魔力だから、ルナリアが魔力を伸ばして来ているのかも。

ルナリアがコテリと首を傾ける。

「んー。でも、フィオレは感じ取れるけど、ジアンは感じ取れないわね」

「・・・慣れだよ。慣れ。魔力を遠くまで伸ばす練習をしていれば、だんだん伸ばせる距離が伸びてきて、魔力の違いも感じ取れるようになるからね」

「そうなのね!」

ルナリアのことだから、納得の行くところまで、ヒマさえ有れば鍛錬を続けるのだろう。

真面目なジアンさんに至っては、寝る間も惜しんで鍛錬を続けるのだろうね。

早期警戒のできる人員が増えることは、みんなの安全に直結するから良いことだけど、嬉しくて頑張ってしまう気持ちが分かるだけに、二人が体調を崩さないように気を付けて見ておかないとね。

移動中は警戒監視と雑談の他にすることが無くてヒマなものだけど、予想外に上手く教導が進んだものから、熱中して、あっという間に時間が過ぎちゃったよ。

もう採掘場の門が前方に見えてきてるから、1時間近くも魔法のレクチャーをしていたんだね。

その結果がルナリアとジアンさんの魔力の手習得だとか、馬でも使えるな! 移動時間!

通勤電車で資格取得の勉強をするサラリーマンみたいになってきたよ!

「おはようございます!」

「おはよう!」

観音開きの門を押し開けてくれた兵士さんたちから挨拶の声が届いて、ルナリアも元気に挨拶を返している。

おや? なんか、兵士さんたちの顔に疲労が見えるね。

「・・・おはよう。夜の間、変わりは無かった?」

「何も、と、言いたいところなんですが、夜半から魔獣の遠吠えが聞こえていました」

鞍から下りながら私が夜間の様子を訊くと、手綱を受け取った兵士さんの表情が深刻そうに引き締まった。

ほほぅ? みんなで夜通し警戒していて徹夜したのかな。