作品タイトル不明
バンダースナッチという魔獣 ㊲
「「むむむむむ」」
二人して唸り始めたけど、ルナリアは素直だし直感的だから、そんなに心配ないだろう。
体感的に取っ掛かりが掴めれば、きっと乗り越える。
ジアンさんは、もう一押し必要な気がするなあ。
魔法って常識の枠に縛られないファンタジー要素が有るから、理屈で考える常識人とは相性が良くない部分が有ると思うんだよね。
「・・・ジアンさん。防御術式を発動するときに、“ここに壁がある”って考えてない?」
「考えているかも知れません」
やっぱりか。
放出した魔力に「そこに壁が存在する」とイメージしたものが作用して防御術式が発現しているんじゃないかな。
「・・・考え方を変えてみよう。ルナリアが言うように、鉄よりも硬く魔力をギュッと押し固めると壁ができる。やってみて」
「魔力を固めると壁に―――、出来たかも知れません」
試行に要した時間は、ほんの数秒間だった。
おお。意外とジアンさんも思考が柔軟かも。
シンプルに魔力を固めて「障壁にする」のと、「そこに障壁が有る」とイメージして魔力を変質させるのとでは、同じことをしているようで少し違う。
「・・・その壁、動かせるよね? 自分の魔力なんだから」
「動かせます。動かせますね」
魔力を固めただけの防御術式は物質化しているわけでは無いから目に見えないけど、自分の魔力を固めた本人は、自分の魔力だからこそ障壁の存在を感知できるものだ。
目を丸くしたジアンさんの視線が何かを追うように動いているのは、自分の魔力で作り出した障壁の動きを目で追い掛けているのだろう。
自分の意志で動かせる魔力で固めた障壁は、物を固定して移動させることが出来る。
剣の柄を魔力で固定して移動させる行為は「剣を握って振る」行為に等しい。
「質の違いを判別できる」のなら、「触覚」が有るわけだしね。
感知の手段と伝達方法が違っても、その機能は肉体と同じものだ。
「・・・それがジアンさんの新しい手だよ。おめでとう。成功したね」
「ありがとうございます!! ―――、しかし、これは魔力消費が激しいですね」
パァッと表情を明るくして頭を下げた後、子供っぽい自分の反応を恥じたのか、照れくさそうに笑う。
イケオジ―――、って歳でもないか。
真面目なクール系イケメンの無邪気な笑顔にシャイな照れ顔とか、手綱操作を誤らせてコンビニならぬ触覚ヘビに突っ込ませて私を殺そうとでも言うのだろうか?
高威力で破壊力MAXのイケメン百面相スウォーム攻撃とか、アスクレーくんと鋼の意志を両手に持つ私じゃなければプシューっと一吹きでコロッと殺られてたよ?
ブヒッ
「・・・だ、だから魔石を通すんだよ。慣れれば意識せず使えるようになるけど、魔石の魔力を掌握できたなら、それはもう、ジアンさんの魔力なんだよ?」
「魔石の魔力は私の魔力・・・」
ジアンさんが目を瞠る。
カルチャーショックを受けたかな?
私は「外付けバッテリー」程度にしか考えずに受け入れたけど、「他者の魔力には干渉できない」とする「常識」を刷り込まれた人の認識だと、「外付けバッテリー」の概念を受け入れるのは難しいんだろうなあ。
真面目な人ほど既成概念の壁を乗り越えるのに苦労するのは、アリアナさんという実例を見ているだけに、想像に難くない。
「・・・もっと慣れると、3本でも4本でも魔力の手を出せるようになるよ。こんな風に」
1本はアクティソナーに使ってるから、魔力の手を3本伸ばして路上に落ちている落ち葉を拾い上げてくる。
私も慣れたもので、3本の魔力の手で摘まんだ落ち葉をヒラヒラ振るぐらいなら意識するほどの負担も無い。
現実には、目に見えていないだけでウニョウニョと触手を振ってるんだけどね。
「後は意識せずに使えるようになるまで積み重ねるだけなのですね」
「・・・そ。頑張ってね。私の場合だと、私の手の延長だと思ってるから、魔力の手も、手の形になるみたい」
私の魔力の手が見えてないジアンさんの目は、宙に浮いてヒラヒラし続けている落ち葉を追い掛けている。
「手の延長・・・。私も、そう考えることにします」
「・・・出来るよ。ジアンさんなら」
「はい」
強く頷くジアンさんの目に鬱屈したものは無い。
自分のすべきことを見据えた迷いの無い目だ。
一度掴み取った感覚なのだから、真面目なジアンさんなら鍛練を重ねて技術を磨き上げることだろう。
ぜひとも頑張って貰いたい。
そうして新しい魔力の手の使い方を編み出したら、私にも情報をフィードバックして欲しい。
ジアンさんが先にモノにしてしまったことでルナリアは悔しそうだね。