軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

バンダースナッチという魔獣 ㊱

後ろを振り返っているとマイ槍を持ちだしてきたディーナさんが大きく槍を振った。

お母様からゴーサインが出たってことだ。

右腕を高く上げて前方へと振り下ろす。

「・・・出発!」

まだ薄暗い空に白色が混じり始めたばかりの大通りを馬列が進み始め、北門を目指す。

さあ、掛かってるかな?

掛かってると良いな。

「掛かってるかしら?」

「・・・今日、掛かっていなくても、そのうち掛かるよ」

「そうよね!」

ルナリアも同じことを考えてたようだ。

また私の心の声が漏れたのかとドキッとしたよ。

採掘場で労せずシカが獲れるようになったことも有って最近は丸投げになっていたけど、ワナを仕掛ければ結果が気になる。

獣と私の知恵比べに勝つか負けるかの勝負だからね。

勝てる自信も有るし、ワクワクする気持ちも変わらない。

そんな思いを共有できる仲間を得られたことが嬉しいし、自分の技術や知識を活かせるこっちの世界が私には合ってるんだろうね。

夜勤明けの兵士さんたちと挨拶を交わしつつ、開門したばかりの北門を潜る。

昨日移植した竹を右手に見つつ街道から逸れて、ルナリアたちと、どうということの無い雑談を交わしながら直線道路を進む。

昨日の同じ轍を踏まないように、魔力の手も前方に伸ばして広げて有るよ。

馬に乗ったままでも、魔力の手のアクティブソナーなら、触角ヘビも探知できると分かっちゃったからね。

前へ伸ばしておくだけなら制御する必要も無いし、他に魔力の手が必要になれば別の手を生やせば良いだけだ。

今のところ、触角ヘビの反応も引っ掛からないし、不意討ちさえ食らわなければ問題なく対処できる。

直線道路の上に覘く空を見上げれば、白んできた空には雲の欠片ひとつ見えない。

今日も冬晴れの良い天気になりそうだ。

なんて、のんびりと馬に揺られていると、少し早い蹄の音が後方から近付いてくる。

何か有ったかな? と、後ろを振り返れば難しい顔をしたジアンさんだ。本当に何か有ったんだろうか。

「フィオレ様!」

「・・・どうかした?」

「出来ました。魔石の魔力を掌握できました」

問題発生を疑って並び掛けてきたジアンさんに訊くと、そうでは無かったらしい。

怖い表情をしてたから悪い報せかと思えば、逆に良い報せだったし。

「・・・おめでとう。これでジアンさんも"紅蓮"の使用回数に制限が無くなったね」

「そういう使い方も出来るのですね」

おや。お母様たちは制限解消を目的に魔石の使い方を覚えたはずだけど、情報が共有されていなかったんだね。

側近の任務から外れていたからかな?

これって機密情報へのアクセス権限レベルみたいなものだろうか。

知的財産管理の企業内基準や、公職者のセキュリティクリアランスでも、同様の概念でアクセス権限レベルが設けられていたはずだし、有り得るな。

ピーシーズ増員メンバーにも適用される情報制限かも知れないから、技術を教えても良い人員の選定条件に基準があるなら確認しておかないとなあ。

とはいえ、折角、身に付けたのなら、新たな可能性も見せておいてあげるか。

「・・・そうだよー? 自分の魔力との違いを感知できるなら、ずうっと前方に伸ばしておけば触角ヘビの不意討ちを食らうことも無くなるよ。ほら」

30メートルほど前方の道路脇の木を魔力の手の中に固定して、ワッサワッサと揺さぶって見せる。

あの距離まで伸ばして広げた魔力の手の中を透過した「他者」は、魔力の違いで探知できるから、私の想定通り、事実上の早期警戒レーダーとして機能している。

「それは凄い・・・!」

「ちょっとフィオレ! そんなの聞いてないわよ!?」

温度差は有るけど、驚きという意味では二人の反応は同じだ。

フッフッフ。「不意打ちを食らわなくて済む」価値は、二人とも理解してくれたようだね。

「・・・昨日、出来るようになったんだよ。ノーアに切っ掛けを貰ったけど」

「それ、どうやるの!? わたしも出来るようになるわ!」

お? ヤル気になったかね。

「・・・ルナリアもジアンさんも防御術式は使えるよね?」

「ぶわっと出した魔力をギュッと魔力を固めるだけで良いのよね?」

ルナリアだけでなく、ジアンさんも頷いている。

「・・・そうだよ。ルナリアは、魔石を通してブワッと出した魔力も自分の手だと思えば良いんだよ。ジアンさんは、魔石を通して放出した魔力で防御術式を使えば物を掴めるようになる」

私なら、こうする、ってアドバイスだよ。

「やってみるわ!」

「魔石の魔力を放出・・・」

性格の違いか二人の反応もそれぞれだね。

でも、私が提示する方法論は一つだし、することは同じ。

「・・・放出した魔力は自分の体の延長なんだから、それは自分の体の一部だよ。体内の魔力を動かすように、放出した魔力に意志を通してみて」

「魔力もわたしの体の一部」

「体内魔力を動かすように放出した魔力に私の意志を通す」

ルナリアは信じ込むことで自己暗示を掛ける遣り方かな。

ジアンさんは論理立って理詰めで考えるタイプっぽいんだよね。