軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

バンダースナッチという魔獣 ㉞

「む。・・・はい。感じ取れますね」

「それって、ジアンさんは魔力の放出を問題なく出来ている証拠なんだけど、魔法を使うときって、その放出している魔力を変化させていることは分かるかな?」

瞼を開いて、いわれた意味を吟味するように思案する。

「ふむ・・・。確かにそうですね。詠唱で術式を発動する際に、私は魔力を変化させていることになるのですね」

「・・・ジアンさんは無詠唱行使を使えたっけ?」

理論立って考えることも出来ているなら、無詠唱行使も出来そうなものだけど。

「いいえ。無詠唱行使というものが、どうして成立するのか今ひとつ理解できません」

おや? これはどういうことだろう?

魔法の行使で何が起こっているかを考える理解力が有るのに、詠唱に囚われてる?

思考が凝り固まっている様子でも無いし、柔軟な対応力も持ち合わせて居る人だと思うんだけど。

これは、アレか。他に方法論を知らないだけじゃない?

だったら、アプローチを変えて見るか。

「・・・ジアンさん。手を貸してくれる?」

言ったときには、もうジアンさんの手を掴んでるんだけど、ジアンさんは抵抗しない。

まあ、子供のすることだからね。

「・・・例えばね。こう、ゴシゴシ擦ると熱くなるでしょ? これってね、摩擦って力が熱に変わってるんだよ。この摩擦がもっと強くなると熱くなって火が点く」

「火打ち石のようなものの過程ですね?」

ジアンさんの手のひらに私の手のひらを合わせて擦り合わせると、手のひらの皮膚が摩擦熱を帯びる。

その現象を、ジアンさんは即座に別のものに例えてみせる。

ほら。やっぱり思考が柔軟な人じゃん。

だったら、詠唱術式のロジックと無詠唱行使のロジックの差違を理解すれば、無詠唱行使にも届くはず。

「・・・その過程を明確に想像して魔力に働き掛ければ、ほら。火が点く」

ペチンと指を鳴らすと、私の指先に小さな火が灯る。

指パッチンの摩擦熱を火打ち石に置き換えて、魔力を変化させた可燃性ガスに引火させただけだよ。

「・・・ジアンさんは、詠唱が何のための作業だと思う? 呪文を一文ずつ区切って何を意味しているか考えてみて」

「何のための・・・。想像を助けるものですか?」

再び数秒間のシンキングタイムで正解に辿り着いたね。

この人も本当に頭の良い人だ。

「・・・そういうこと。だったら、現象の過程を理解して、頭の中で明確に想像できるなら呪文は必要なくなるよね」

「ふむ・・・。なるほど」

分かってくれたみたいだね。

無詠唱行使のロジック。

じゃあ、もう一歩、踏み込もう。

「・・・詠唱でも無詠唱でも、やってることは同じなんだよ。ジアンさんも想像することで放出した魔力を現象に変化させている。ジアンさん自身の魔力が、どう変化しているのかを感じ取れれば、魔力の質を変化させる感覚は掴めるんじゃないかな?」

ハッとした表情を見せたジアンさんが笑みを浮かべる。

今度の笑みは煤けていないし、目の光りに生気が満ちている。

丁寧な仕草でスッと頭を下げる。

「ありがとうございます。突破口が見えたように思います」

「・・・ジアンさんなら出来るよ。ついでに無詠唱行使もやっちゃえば良い」

「ご期待に添ってお見せしましょう」

再び頭を上げたときには、ジアンさんの目に迷いはなかった。

ジアンさんがお母様たちへと目を向ける。

私たちのやり取りを黙って見守っていたお母様が、ジアンさんの視線を受け止めて片眉を上げた。

「素晴らしい方ですね。フレイア様の後継に相応しい方です」

「だろう? 自慢の娘だ」

何この流れ? ベタ褒めされているのが分かるだけに、ものすごく照れくさい。

離脱するか。

「・・・あ、明日のことも有るし、解散させてくるよ」

「おう。行ってこい」

照れ隠しなのがバレてる!

からかうようにニヤリと笑ったお母様たちに送り出されて、私は撤収と解散を申し渡しに、みんなのところへと向かった。

もう! みんな、いつまで遊んでるの!

7の鐘が鳴り始めちゃったじゃん!