作品タイトル不明
バンダースナッチという魔獣 ㉝
「おお~! 何だコリャ!?」
「冷てっ!」
「おい! 俺にも代われ!」
歳を取っても男の子は好きだよね、こういうの。
ワーワーやってる人垣の頭上に、ピュー、ピューっと細い水が吹き上がっているのが面白い。
「順番だ、順番!」
「俺にもブッ掛けさせろ!」
「水が無えぞ!」
お? 水切れか。
そろそろ落ち着くのかな? と、思ったら、ぜんぜん、そんなことは無かったらしい。
「井戸だ! 井戸へ移動するぞ!」
「「「「「おおっ!」」」」」
ワーワーやりながら厩舎脇の井戸へと向かった猟師さんたちの後ろ姿を見送って、どうやら水鉄砲を狩猟道具だと思って見守っていたらしい女性陣が、微妙そうな顔をしている。
他人の仕事の邪魔をしてまで面白そうなものに食い付くほど、うちの女性陣は常識外れでは無いのだ。
「面白そうね」
大人しく見ていたエゼリアさんがポツリと呟いた。
アンリカさんをはじめとした女性陣がコクリと頷いて同意を示す。
その正体が玩具だったと後でバレたら私が〆られそうなので、水鉄砲の正しい使い道を教えてあげる。
「・・・夏の暑い日には、水を掛け合って涼む玩具になるよ? あれは元々、そういう用途の玩具だから」
「「「「「・・・・・」」」」」
エゼリアさんたちが無言でバッと顔を見合わせる。
玩具だと聞けば黙ってるわけ無いよね。
「もっと作りましょう!」
「作れるだけ作るわよ!」
わっと材料に群がったエゼリアさんたちの輪に、ルナリアやピーシーズも混じってワイワイし始める。
完成品に群がるよりも、新たに追加供給した方が自分に順番が回りやすいと即座に判断するところが賢い。
手伝ってあげた方が良いかな? と、考えたけど、必要なさそうだな。
簡単に作れるものだし、みんな理解力が有って記憶力も良い人たちだから、私がプレゼンした作り方も注意点もキッチリと頭に入っているらしい。
お母様とお婆様も興味は有りそうだけど、お二人は完成待ちのスタンスかな。
お母様たちは魔力酔いを起こしたノーアを手元に捕まえているし、仕方ないだろう。
「・・・ふぅ」
「お疲れさまでした。フィオレ様」
一仕事終えた私をミセラさんたちが労ってくれる。
お巫山戯が大好きなのに、一番落ち着いているのがミセラさんたちという、この不思議。
「・・・ありがとね。色々と用意してくれて」
「いいえ。お力になれたのなら幸いです」
お礼を言うと、ふわっと笑って返してくれた。
そう言えばジアンさんは? と、見回せば、お母様たちの傍で魔石と睨めっこを続けていたらしい。
煮詰まっているようなら、ちょっと手助けしてあげるかな。
「・・・ジアンさん。どんな感じ?」
「フィオレ様」
「・・・どこかで躓いてる?」
ふむ? ちょっと元気ないかな。
ふっと笑みを見せるけど、どこか煤けた感じが有る。
ほんの数秒間、目を伏せたジアンさんが真剣な表情で目線を上げた。
「魔力の質を変えるという感覚が、なかなか掴めず」
「・・・他人や魔石の魔力が、自分の魔力とは違うものだって感覚は分かる?」
凄いな、この人。
6分の1以下しか生きていない子供を相手にでも、正直に出来ないことを曝け出して教えを請えるのだから、どれだけ真面目に、真っ直ぐ生きている人なのかが分かる。
目的を見失わずにプライドを捨てられる、というのは、人間の成熟度が高い証左だと私は考える。
いい大人だからこそ、なかなか出来ることじゃないよ。
こんな人、スレた私でも協力したくなっちゃう。
私の質問を噛みしめるように吟味して、慎重に言葉を選ぶように答える。
「はい。冷たいというか、固いというか、私とは異質なものだと感じます」
「・・・じゃあ、手に持っていない状態でも感じ取れる?」
魔力の質の違いは感じ取れている様子だから、どこに問題が有りそうか掘り下げてみる。
ジアンさんの左手に有る魔石の先っぽを摘まみ上げて、10センチメートルほど手のひらから離した私の問いに、ジアンさんは瞼を閉じて集中する。