作品タイトル不明
バンダースナッチという魔獣 ㉟
一夜明けて、4時起きだよ。
連日の4時起き。
行軍中の野営でなら珍しくない起床時間だけど、平時だと、この時間帯に起床するのは珍しい。
つまり、有事態勢扱いってことだね。
「・・・ルナリア~!」
「むきゅっ!? きゃははははは! 起きたっ! もう起きたからーっ!」
「うにゃー・・・」
ルナリアの脇を鷲掴みにする毎朝のルーティンをこなして身支度に掛かる。
ノーアも眠そうだね。ヨシヨシ。
昨日、18時に解散して、即座に浴室へと連行されて丸洗いされ、報告がてらの晩餐を終えた頃には、ルナリアと私は目が半分潰れかけている始末で、ノーアは船を漕ぎ終わって寝落ち状態だった。
20時には3人揃ってベッドで溶けていたから、8時間は睡眠時間を確保できている。
ワナを設置し終えてバンダースナッチの処理が軌道に乗れば平常運転に戻るから、睡眠時間が削られるのも、あと数日で済むだろう。
済むよね? いや、済ませるよ。
私的には就寝前の読書タイムを削られているだけで、8時間睡眠でも問題ないんだけど、まだ10時間睡眠が望ましいようなことを言われているから、何とかお婆様の要求水準に合わせたい。
「・・・また、たくさん作ったねえ」
「20本ぐらい有るんじゃない?」
「・・・そんなに要らないでしょ」
私たちの視線を集めているのは、積み上げられた手桶に突っ込まれている水鉄砲だよ。
自宅に帰って家に材料が有った猟師さんたちは、満足の行く出来のものに仕上がるまで水鉄砲を探求していたらしい。
ワナ猟が広まるまでは木工職人をしていた人たちが何人も居るそうだから、職業病かな。
お昼の休憩時間中にでも争う水鉄砲飛距離選手権でも入れ知恵すれば、とんでもなく完成度の高い水鉄砲が配備される日が来るかも知れない。
来年の夏が楽しみだなあ。
武器庫から引っ張り出されてきたらしい槍の束が、領軍の兵士さんの手から猟師さんの手に渡って荷馬車に積み込まれていく。
あれはバンダースナッチ討伐にあたっての貸し出し品らしい。
その様子を眺めていたルナリアが不思議そうに首を傾げる。
「みんな今日は両手槍を使うのね」
「・・・手槍だと危ないからじゃないかな」
「危ないの?」
ルナリアの首の傾きが深くなる。
いつもの回収作業では手槍を使ってるからね。
障害物が多い森の中では、あんまり両手槍のような長い槍は使わない。
今回は、バンダースナッチの群れが予想以上に大きな個体を含んでいることが分かったから、特別措置なんだよ。
てくてくと歩き回るのに両手槍は持ち運びも邪魔になるし、長い分、槍の重量も重いからね。
金属製の穂先が先っぽに据え付けられてるのだから、バランスの悪いヤジロベエを担いで歩くと考えれば、長い槍を持ち歩く負担の大きさは分かって貰えるだろう。
猟師さんたちが商売道具に短めの手槍を選ぶのは、そういう理由。
「・・・群れのボスが大きそうだからね。ほら、足が長そうだし」
「ああ。手槍の長さだと反撃が届いちゃうかも知れないのね?」
犬パンチの真似事をして見せたら、ルナリアも理解が及んだようだ。
片手でも扱える手槍は2メートル前後の長さだけど、両手槍は3メートル以上の長さがあって、単純に獲物からの距離が取れる。
近接戦闘において間合いの1メートルは大きな差だ。
手にした槍がほんの少し長いだけでも、獲物の反撃で負傷する危険性を大きく減らせる。
「・・・さて。そろそろかな」
「出発準備ね!」
現在時刻は5時半ぐらいかな。
ミセラさんたちが調達してくれたシーヴァとビネガーの木箱も積み込みが終わって、準備は万端だよ。
みんなが自分の乗馬へと散っていく。
私たちも自分の馬の首に手を伸ばして撫でてから鞍によじ登る。
今朝はセリーナ様も採掘場へ行くからノーアはセリーナ様に捕獲されている。
最近はお母様とお婆様とシェアしているから、構う時間が減っていたノーアを捕獲できてセリーナ様はご機嫌っぽい。
なお、私はセリーナ様に、いつから呼び方を変えるべきかを訊けずにいる。