作品タイトル不明
バンダースナッチという魔獣 ㉚
少し歩き回ったけど、土壌の面で「移植に適した場所」は無さそうだね。
どこもカチカチに固まった地面ばかりで、土地も痩せてると思う。
だとしたら、土で場所を選ぶのは無理だな。
私のビジョン的に、この場所に建てる慰霊碑は竹林を背景にしようかと考えてるんだよね。
3段重ねのジャパニーズスタイルで建てるなら、背景は竹林じゃね? という、私の思い込みによるものだけど。
見慣れない、ちょっと変わったランドマーク的な風景になるようにすれば、手を合わせて祈りを捧げる人が居るかも知れない。
精霊だって、多くの人たちにお願いされた方が、無視できなくなってお願いを聞いてくれるんじゃないかな。
そんな風に考えてしまうのは場の空気に流されやすい日本人的感性だろうか。
採りやすい場所にタケノコが生えてくれれば食材も増えるし。採りたての皮付きタケノコを焚き火にブチ込んで、ホクホクに焼き上がったタケノコに醤油を垂らすだけでも美味しいんだよ。
醤油がなくても、お塩を軽く振るだけで美味しく食べられる。
採りたてのタケノコは灰汁が少ないから刺身で食べられるぐらいだからね。
タケノコ食いてー、などと涎を飲み込みつつ、場所を決定する。
「・・・ヨシ。耕すか」
竹が足りなければ反復的に移植を繰り返すつもりで、街道側から見えやすい辺りの地面に魔力の手を差し込む。
1メートルぐらいの深さから土をひっくり返すつもりで持ち上げると、「土」というよりも「岩?」って感じの塊で、固く締まった地面がゴソッと持ち上がる。
「・・・うーん?」
これはダメか? 魔力の手の中で揉み解すと、砂礫のような粗い質感の土が穴ぼこの中へと落ちていく。
工事現場を思わせる白っぽい砂埃がもうもうと舞って、とてもじゃないけど「土を耕す」という雰囲気では無い。
どう見ても森の中の土より良くないね。
どうしたものかと視線を上げると、森の木々の間に落ち葉が積もった地面が目に留まる。
「・・・混ぜるか」
耕作放棄地なんかを再生する動画で、腐葉土を漉き込む作業を観た気がする。
魔力の手を森の中へ伸ばして落ち葉が積もった地面を掴み取ってくる。
穴ぼこの中の土と合わせて、二つの魔力の手で擦り合わせるようにしてゴリゴリと土を混ぜる。
何度も何度も擦り合わせていると、粗い砂礫の土が細かく砕かれて、森の土と混じって暗い色に変わってくる。
何度か森の土を足して混ぜ返していると空気を含んだ土が体積を増やす。
小山のように積み上がった土は多すぎるので、森の土を抉り取ってきた場所へ返しておく。
何度か繰り返していると、少しは土っぽい土になってきた。
何だかんだで森の土は栄養に富んでそうだ。
新しい畑を開墾するときにも森の土を混ぜ込みたいなあ。
直線道路の向こう側へと目が向く。
いつの間にか人垣が出来上がっていて、私の作業を興味深そうな顔で眺めていた猟師さんたちの頭越しに、向こう側の森の木々が見えている。
「・・・あっちの土も使えるよね」
養成施設の土地を開墾したときに、原野の土と入れ替えた方が良いのかも。
建設用地の土は痩せていても構わないんだし、栄養に富んだ土を建物の下に埋めてしまうのは勿体ないな。
森の木を伐ったときには大量の枝葉が出るし、細かく粉砕して発酵を促せば良い腐葉土を大量に作れそうだ。
少しはマシになったであろう土壌は10メートル四方ほどの範囲になった。
フカフカのままだと風で土が飛ばされそうだから、大きく広げた魔力の手でポンポンと軽く叩いて固めておく。
仕上げに、耕された範囲の真ん中付近に魔力の手の指先で小さな穴を空け、種蒔きみたいに使い残しのシカの魔石を埋める。
これで土壌改良作業は終了だ。
ずいぶんと日が傾いて来たし急がなきゃ。
「・・・植えるか」
森の外縁に沿った等間隔で、直径50センチメートル、深さ50センチメートルの穴を空けて、根巻きされたままの竹を魔力の手で引っ摑んで、それぞれの穴に突っ込んでいく。
竹って植物は根入りが浅くて水平方向へ地下茎を伸ばすから、根付いてくれさえすれば竹林を広げてくれるだろう。
降水量が少ない気候だけど、ウォーレス領の土地も王都周辺と同じように地下水が豊富みたいだし、地表を落ち葉が覆えば乾燥にも耐えられるはず。
ズモモっと周囲の土で根巻きの上の穴ぼこを埋めてしまえば移植は完了。
一応、根付くまでに竹が倒れてしまわないように、土を盛り上げて支えを付けておく。
「・・・ふぅ」
魔法で全作業を行ったから汗一つかいてはいないけど、袖口で額の汗を拭う仕草でヤリきった感を出しておく。
みんな、汗一つかいていないことに気付いてて笑ってるけど、気分だよ、気分。
あ。拍手してくれるんだ? ドーモドーモ。
あれ? いつもなら「何やってんの?」的に興味津々で覗き込んでくるミセラさんたちの姿が無いな。